『麒麟がくる』本能寺の変まであと5年 長谷川博己と染谷将太が残す“言葉”と“顔”

『麒麟がくる』本能寺の変まであと5年

 そんな信長の光秀に対する信頼が、大きく崩れたのが、第40回「松永久秀の平蜘蛛」だ。信長軍から離反した松永久秀(吉田鋼太郎)は、信長との戦に破れた際には、信長が欲している天下一の名物「古平明平蜘蛛」を光秀に託すことを伝える。

 久秀の自害後、落城した信貴山城から平蜘蛛が見つからなかったことから、信長は久秀と懇意だった光秀に行方を聞くが、光秀は「存じません」と白を切る。実は羽柴秀吉(佐々木蔵之介)からの密告により、光秀が平蜘蛛のことを知っていると聞いていたが、あえて断定ではなく、光秀に回答をゆだねるあたり、どこかで信じていたいという思いがあったように感じられる。

 信長の信頼に反し、光秀は嘘をついたことで、ついに光秀に対する「全肯定」が崩れてしまうが、ここでも光秀の娘・たま(芦田愛菜)の縁談を持ち出すなど、大きな感情の崩れを見せない。この信長の“ため”は、その後の反動による光秀への爆発が、どれほどのものになるのか……というざわめきを視聴者に与えた。

 染谷は自身に信長役のオファーが来た際に「なぜ自分なのか」(参考:本能寺の変を前に…信長役・染谷将太、1年の大河撮影振り返る 泣くシーンでは酸欠状態に|シネマトゥデイ)と半信半疑だったと話していたが、光秀に対峙する立ち振る舞いの繊細な変化など、視聴者を不穏な気持ちにさせる人物造形は圧倒的であり、心に残る信長を演じ続けている。

 光秀に対する思いが、徐々に変化していく信長に対して、光秀の信長への変化はシンプルだ。前述したように、泰平の世を作ってくれると期待した信長だったが、彼のなかにあるのは、強い承認欲求。最初は帰蝶に褒めてもらいたいという小さな思いが、国を広げていくたびに、信長を褒める人が増えてきて、ついにその対象は正新町天皇(坂東玉三郎)にまで及ぶ。

 光秀の考える「大きな国を作る」という解釈の違いに気づき、すでに信長の本質を見切ったからこそ、光秀は戦火の火種となるような信長の行動には、しっかりと異を唱えてきた。その反論の仕方も、信長の不気味さと違い、光秀は非常にストレートだ。そんな光秀の真っすぐな性格と、長谷川の背筋が伸びた俳優としての佇まいが絶妙にマッチしており、時間を重ねるごとに、「本能寺の変」に向けて、光秀の一挙手一投足に感情移入してしまう。

 主君に謀反を起こした「本能寺の変」だが、そこに至るまでの光秀の動機と思われるものは、物語のあちこちにちりばめられている。さらに本作で見せる長谷川、染谷という名優が織りなす役柄への人物造形によって、二人の複雑な関係性がより立体的に浮かび上がっているからこそ、どんな展開になってもドラマチックな結末になることは必至だ。

 いよいよ大一番、信長は光秀が起こした行動にどんな言葉を残すのか。そして光秀はいかなる表情を見せるのか。長谷川と染谷の“顔”にも注目したい。

■磯部正和
雑誌の編集、スポーツ紙を経て映画ライターに。基本的に洋画が好きだが、仕事の関係で、近年は邦画を中心に鑑賞。本当は音楽が一番好き。不世出のギタリスト、ランディ・ローズとの出会いがこの仕事に就いたきっかけ。

■放送情報
大河ドラマ『麒麟がくる』
NHK総合にて、毎週日曜20:00~放送
BSプレミアムにて、毎週日曜18:00~放送
BS4Kにて、毎週日曜9:00~放送
主演:長谷川博己
作:池端俊策
語り:市川海老蔵
音楽:ジョン・グラム
制作統括:落合将、藤並英樹
プロデューサー:中野亮平
演出:大原拓、一色隆司、佐々木善春、深川貴志
写真提供=NHK
公式サイト:https://www.nhk.or.jp/kirin/
公式Twitter:@nhk_kirin

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