三宅唱が語る、2020年に映画監督として考えていたこと 「映画ならではの力を探りたい」

三宅唱が振り返る2020年

星野源「折り合い」MVを手がけて

星野源 - 折り合い (Official Video)

――作品的なところに話を戻すと……もともと2020年の撮影予定は何もなかったとのことですが、三宅監督が撮影した星野源さんの「折り合い」のミュージックビデオが、6月に公開されましたよね。

三宅:5月の後半にオファーがあり、緊急事態宣言が明けて動けるようになったらすぐに撮って発表しましょう、という話になったんです。話をもらってから公開するまで、今思うとかなりテンポが早かったですね。

――ある意味、予定外の仕事というか……音楽シーンのど真ん中にいる人から、いきなりオファーがきたと。しかも、「うちで踊ろう」の動画が大きな注目を集めた、その直後の新曲のMVになるわけで。

三宅:そういうタイミングで、初めましての自分に声をかけてくれた訳で、その賭けにがっつり応えたいなと思いました。

――具体的には、どんなアイデアのもと、作品を作っていったのですか?

三宅:曲づくりの背景をお聞きしたら、これまでの楽曲とは違って、ひとり部屋にこもって作られたということだったので、その姿を再現するかのように、部屋で働いている星野さんの姿を撮ろう、というのが出発点でした。

――三宅監督の映画『THE COKPIT』のような……。

三宅:そうですね。星野さんもあの映画の予告編を当時観てくれていたようで、最初のリモート打ち合わせですぐにコンセプトを共有できました。ただ、被写体が違うので、狙いどころは全然変えますよ、と。働く人の手というか、星野さんの手、キーボードやマウスを操作する手、歌詞を書いたりする手……とにかく手を動かして、何かものを作る。そういう手の動きをしかるべき光のもとで見つめる、というアイデアに乗ってもらいました。

――なるほど。

三宅:あとは、星野さん同様、部屋で何か手仕事をしている別の人物が必要だろうと思って。「うちで踊ろう」の動画は様々な方とのスプリット画面として波及していましたが、「折り合い」では絶対にスプリット画面にせず、シーンバックで別の場所にいる2人の人物を見せようと、事前に決めていました。

――三宅監督の映画『きみの鳥はうたえる』に引き続き、今回も石橋さんが素晴らしかったですよね。

三宅:ちょうど3年ぶりでしたが、面白かったです。何がどう面白いのかはなかなか言葉にしづらいんですが、試しに言ってみると、石橋さんは、体幹の強さというか、身体のしなやかさみたいなものがあって、それによって独特な動き、リズム、時間をお持ちになっている。どんな人でもその人のフィジカルならではの時間があると思うんですが、それを捉えるコツみたいなものを石橋さんとの仕事から教わっているような気がします。そういう自然の川の流れみたいなものを促したり、捉えるのは面白いですね。僕も編集しながら、謎にストレッチを始めたり、その後バランスボールを買ってみたりして。頑張れば石橋さんよりしなやかな体になれるんじゃないかなと思って……まあ、今のところ全然無理なんですけど。

――発表後の反響は、いかがでしたか。これまでとは、また違う層に届く作品だったのでは?

三宅:自分たちとしても手応えがあったので、早々に多くの人に観てもらえて率直に嬉しかったです。

――星野さんの歌自体がそうですけど、気軽に人と会うことも憚れるような、あの頃の状況を反映した作品にもなっていたわけで。

三宅:撮影現場においても、あの頃の空気が反映していた気がします。声を掛けた旧知のスタッフたちも、いろいろ撮影が止まったりして、ずっと家にいたみたいで。みんな1カ月とか2カ月ぶりの撮影現場で、不思議な高揚感があった記憶があります。当時は衛生対策なども慣れてませんし、ロケ地を探すのも勝手が変わりましたが、いい意味での緊張感もあったし、だからこそすごく落ち着いた体制で臨むことができました。たとえば、光のことだったりとか、そういうことも結構納得のいくところまでやることができましたし。

――そう、光を受けながら揺れるカーテンが、ちょっと『呪怨:呪いの家』っぽいなとか、あとで観直して思ってしまいましたけど(笑)。

三宅:ははは、でもそれは意図してなかったです(笑)。全く別の場所なのに同じような光が届いている、という狙いでした。二日撮りで、一方の部屋は実は途中で雨天になり焦りましたが、見事に晴れの光を作ってもらいました。

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