コロナ禍の社会で夢を見られるだろうか? 『らいか ろりん すとん』が映す剥き出しの感情

『らいか ろりん すとん』が描く夢と現実

 ワキワキワッキーは、2019年の合宿オーディションを描いた映画『IDOL-あゝ無情-』にも登場している。冒頭で、壱岐島に到着するなり過呼吸で倒れて救急車で搬送され、オーディションを断念したのが彼女である。その彼女がこうして『らいか ろりん すとん -IDOL AUDiTiON-』では主役格になれたが、現実は甘くない。COVID-19に侵される、この社会のように。

 前作『IDOL-あゝ無情-』が事実上、第2期BiSが瓦解していく過程のドキュメンタリーであったのに比べると、『らいか ろりん すとん -IDOL AUDiTiON-』は正気に返ったようにまっとうな合宿オーディションのドキュメンタリーだ。どこか駆け足な印象があるのは、前作の岩淵弘樹に加えて、エリザベス宮地にバクシーシ山下と、3人も監督がいる体制と関係があるのだろうか。緊急事態宣言前後の社会とエンターテインメント業界の関係の難しさを投影したかのような映画だとも感じた。

 一方で、渡辺淳之介の存在感がこれまでほど強くなく、参加メンバーの内面を描こうとする構成は挑戦的だ。技術面でも、レッスンをするメンバーの周囲をぐるっと回りながら撮るカメラワークは、『らいか ろりん すとん -IDOL AUDiTiON-』の絵をぐっと締めている。

 『らいか ろりん すとん -IDOL AUDiTiON-』で何度も話題に出てくるのは、現役のWACKメンバーも、合宿オーディションでは何人も落ちていたという事実だ。インポッシブル・マイカとワキワキワッキーの姿を再び見られる日は来るのだろうか。それは、コロナ禍の社会で夢を見られるのかという問いでもある。あなたは、コロナ禍の社会で夢を見られるだろうか?

【本予告】映画『らいか ろりん すとん -IDOL AUDiTiON-』WACKオーディションドキュメンタリー2021年1月15日(金)公開

■宗像明将
1972年生まれ。「MUSIC MAGAZINE」「レコード・コレクターズ」などで、はっぴいえんど以降の日本のロックやポップス、ビーチ・ボーイズの流れをくむ欧米のロックやポップス、ワールドミュージックや民俗音楽について執筆する音楽評論家。近年は時流に押され、趣味の範囲にしておきたかったアイドルに関しての原稿執筆も多い。Twitter

■公開情報
『らいか ろりん すとん -IDOL AUDiTiON-』
1月15日(金)より、テアトル新宿ほか全国順次公開
監督:岩淵弘樹、バクシーシ山下、エリザベス宮地
プロデューサー:渡辺淳之介
出演:オーディション候補生、BiSH、BiS、EMPiRE、CARRY LOOSE、豆柴の大群、GO TO THE BEDS、PARADISES、WAgg
撮影:岩淵弘樹、バクシーシ山下、エリザベス宮地、白鳥勇輝
配給: 松竹 映画営業部ODS事業室/開発企画部映像企画開発室
(c)WACK INC.
公式サイト:http://rolin-ston-movie.com

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