『呪術廻戦』『チェンソーマン』 映画好き作者が産むヒット作が提示する“引用”の重要性

人気ジャンプ作品が提示する、引用の重要性

『チェンソーマン』規格外の演出の出どころとなった映画作品

 藤本タツキによる『チェンソーマン』は、映画もそうだが漫画や小説、音楽など広い文化領域で沢山の引用がされている作品だ。それというのも、作者が大の映画好きだと公言しているからである。実際に、作品の中で活用された、所謂“元ネタ”とされる映画について少し言及しよう。

『悪魔のいけにえ』

 まずは、タイトルともなっている『チェンソーマン』だが、過去に掲載された公式インタビュー「藤本タツキ 毎日インタビュー」では、チェンソーの由来がサム・ライミ監督の『死霊のはらわた』ではなく、トビー・フーパー監督の『悪魔のいけにえ』であることを名言している。

『ヘルボーイ』

 主人公デンジに肉親を殺された敵、刀の悪魔(サムライソード)のヴィジュアルはギレルモ・デル・トロ監督作『ヘルボーイ』に登場するクロエネンというキャラクターに着想を得ていると思われる。「ジャンプルーキー!」に掲載された「【第66回】担当作家 藤本タツキ先生Q&A!」では、悪魔や魔人のデザインについて「自分の好きなデザインをずっと集めています。映画やゲームのキャラデザとか。そういう3〜4つ複合してデザインしています」と語っている。その時、『ヘルボーイ』の画集を購入したことも明かしていた。

ナ・ホンジン監督作『チェイサー』『哀しき獣』『哭声/コクソン』

『哭声/コクソン』(c)2016 TWENTIETH CENTURY FOX FILM CORPORATION

 特に作者は韓国映画界の大物ナ・ホンジンの大ファンである。沙村広明との対談(参考:藤本タツキ×沙村広明奇跡の対談)でも、自身の作風が『チェイサー』に影響を受けている点を明かした。だからこそ、2話目のサービスエリアでうどんとフランクフルトを注文するデンジが、『哀しき獣』の主人公がコンビニでラーメンとフランクフルトを食べていた姿と重なる。さらに、27話で京都の神社からマキマが敵に対し遠隔攻撃を行うための儀式を行うが、そのシーンは『哭声/コクソン』を参考にしたと30号の『週間少年ジャンプ』にてコメントしている。

『女ガンマン 皆殺しのメロディ』

 爆弾の悪魔、レゼが公安に侵入し、居合わせた職員を片っ端から殺戮した46話「皆殺しのメロディ」。このサブタイトルは1971年に製作された西部劇『女ガンマン 皆殺しのメロディ』に由来する。本作は夫を殺された女が復讐を誓い、銃で悪党を成敗していく物語。あのクエンティン・タランティーノ監督が『キル・ビル』シリーズを作る際のモデルにした作品でもあり、藤本タツキは同監督作『デス・プルーフ in グラインドハウス』が大好きだと、5巻の作者コメントにて名言している。

『シャークネード ラスト・チェーンソー 4DX』(c)2018 FELLS POINT PRODUCTIONS, LLC. All Rights Reserved.

 他にも、49話と50話(サブタイトル「シャークネード」)で明らかにオマージュされたB級サメ映画界の傑作『シャークネード』や、作品全体の強い悪魔に強い悪魔を当てて戦わせるやり方も「化け物には化け物をぶつけるんだよ!」のセリフでお馴染みの『貞子vs伽耶子』のやり方であるし、終盤でとあるキャラクターがとある悪魔の復活を願った儀式を行う際、用意された者たちが首が切除されてひざまずいた状態にあったシーンは、『ヘレディタリー/継承』の引用だろう。他にもたくさんの映画の引用があるが、ここでは割愛させていただく。

 彼の映画の引用は『呪術廻戦』のそれとは違い、絵作りや設定、意味性の深みに使われている。そして物語の展開の仕方は、そういった既存の作品に影響を受けながらも、それらのエッセンスを掛け合わせることで真新しいオリジナルなものとなっているのだ。

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