ワーナー作品の“劇場公開と同時にHBO Max配信”が意味すること 業界を騒がせた問題を解説

ワーナーのHBO Max配信問題を考える

もはや虫の呼吸でしかない、大手映画館側との事情

『TENET テネット』(c)2020 Warner Bros Entertainment Inc. All Rights Reserved

 そしてダメージを最も直接的に受けるのは、映画館だ。アメリカ大手劇場チェーンのAMCも、世間にこのことが発表される1時間前に知らされたとのこと。ただでさえパンデミックのせいで全米の劇場は8月頃まで閉鎖状態であり、ノーランが起死回生の策として用意していた新作『TENET テネット』もこれに影響を受けて興収が振るわなかった。

 それ以前に、映画館側はスタジオ側とすでにこの配信を巡って大きな喧嘩をしていた。ユニバーサル・ピクチャーズ。彼らが4月上旬に『トロールズ ミュージック★パワー』を劇場公開せず、VODスルーに踏み切った。スタジオはスタジオで、映画をできるだけ収益性の高い形で公開して興収を得たいのが本音。しかし、これがAMCの怒りを借り、ユニバーサル作品を同系列の劇場で今後一切上映しないというボイコット声明にまで繋がった。

『トロールズ ミュージック★パワー』(c)A UNIVERSAL PICTURE (c)2020 DREAMWORKS ANIMATION LCC.ALL RIGHTS RESERVED.

 この時、親会社のNBCユニバーサルのジェフ・シェルCEOはプレミアムVOD(PVOD)として出された『ミュージック★パワー』が前作の劇場公開時に引けを取らない収益を生み出せたことで、配信の可能性を確信。劇場再開後に、映画館とPVODの2つのフォーマットで作品を公開していくことになる、とまで言ってしまった。もともと、配給会社と映画館側では「シアトリカル・ウィンドウ」というルールが存在する。これは、劇場公開作品の二次使用(配信など)を公開から3カ月空けるもので、映画館の収益を守る趣旨のものだ。だからこそ、このユニバーサル側の発言は、今後多くのスタジオが同じ措置をとってしまうことを誘発する可能性があり、劇場側にとっては極めて危険なものだった。

 しかし、そんな彼らもその後和解。ユニバーサル側がPVOD配信の収益の一部を劇場側に還元することに取り決めたのだ。AMC側はロックダウン解除後も劇場再開の目処が立たず、少しでも収益が欲しいのでこれに同意した。つまり、ユニバーサルもワーナーのように勝手なことをしたわけだが、その後しっかりと収益還元の仕組みを作った。ワーナーはその保証を、映画館どころか製作会社にもするつもりがないというので、そりゃあ誰もが怒り狂うわけだ。AMCはこのHBO Maxに関する決定によって「(経営)状況が悪化した」と発言。2021年の1月中旬までに7億5000千万ドルが用意できないと、キャッシュが完全になくなる旨を投資家に警告したばかりだ。

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