『アーヤと魔女』で宮崎吾朗の真価が試される? フル3DCGで父親の影から脱却なるか

『アーヤと魔女』宮崎吾朗の真価が発揮?

おぼろげながら見えてきた方向性

 CGという手法を経験して、吾朗監督はCGなら芝居を作りこめるという実感を得たようだ。彼はインタビューでこう語っている。

「手描きのアニメーションは上手なアニメーターじゃないと描けないんですよね。CGを使ったアニメーションに可能性があるとするなら、一般に言われている派手なカメラワークとかより、実はネッチリとお芝居をさせることなんじゃないかなというのがわかってきました」(※3)

 『山賊の娘ローニャ』は、確かに派手なカメラワークはあまり使用されず、フィックスのカットが多い。本作の背景が手描きのため、360°空間を作り上げていないだろうから、カメラをふれないというのもあるのだろうが、吾朗監督の言う芝居をしっかり作って見せたいという意図を汲んだカッティングなのだろうと思われる。

 3DCGならスーパーアニメーターじゃなくても芝居を作れる、というのはある程度事実かもしれないが、CGにはCGの難しさと職人の世界がある。CGだろうと良い芝居を作るには上手なアニメーターが必要だが、いろいろ試行錯誤しやすい面はあるだろう。

 おそらく、3DCGという手法は吾朗監督にとっては手描きよりもなじみやすいものなのだろう。彼は元々建築の仕事をしていたが、建築とは空間を作る仕事であるから、コンピューター上に空間を作り上げる3DCGと共通点を見いだせる。そして彼は大学生時代には児童人形劇のサークル活動をしていたこともあるが、3DCGキャラクターも言うなればデジタルの人形のモデルを作って動かすものだ。3DCGのほうが彼のキャリアで培ってきたものを活かしやすいのではないか。

 吾朗監督も以下のようにCGと建築の仕事のつながりについて語ったことがある。

「フル3DCGの作業は簡単に言うと、コンピューターの中にセットを作り、コンピューターで作った立体のキャラクターを置いてお芝居させる。それにライトを当て撮影する。実写映画と同じです。CGで画面を作る時は、自分がその中にいてカメラを向けたらこう映るだろうな、と想像しながら構成します。部屋の大きさはこれぐらいで、もっと広角っぽい撮り方がいいかな、などと選んでいく。ジブリパークの空間も、これと似た感覚で考えます」(※4)

 『アーヤと魔女』は背景も含めて全て3DCGで作成されている。今まで以上に本人の経験が活かせる環境になったと言えるのではないか。

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