『ワンダーウーマン』で描かれた歴史は現在とリンク 問題や可能性を内包した大ヒット作を振り返る

地上波初放送記念『ワンダーウーマン』を考察

 意外なのは、とくに女性に人気のある俳優クリス・パイン演じるトレバーとワンダーウーマンことダイアナに男女の愛情が生まれ、作品全体にラブロマンスの要素が色濃く見られる部分についてだ。それは、近年のハリウッドにおける、従来からの固定観念を打ち破ろうとする女性の描き方からすれば、保守的にも見えてしまう。『ローマの休日』(1953年)のジェラートを食べるシーンを本作でオマージュしているように、恋愛映画として観ることもできるのだ。

 実際この点について、自作において“強い女性像”を登場させてきたジェームズ・キャメロン監督は、進歩的ではないと批判している。その後撮られた『ターミネーター:ニュー・フェイト』(2019年)の主人公である女性たちの渋いかっこよさは、そんな彼の信念が反映している。

 だが、これだけでパティ・ジェンキンス監督の試みが進歩的でないと考えるのは早計である。それは、本作のワンダーウーマンが、けして従来のヒロインの枠には収まっていないからだ。むしろ、“ヒロイン”として扱われているのは、クリス・パイン演じるトレバーの方である。本作は、恋愛描写において意識的に男女の役割を逆転させることで、ある種の皮肉を作品に滲ませているのではないか。イギリス軍とドイツ軍の戦闘における、塹壕と塹壕の間の空間“ノーマンズランド”を、女性ヒーローだからこそ走り抜けることができるという描写にも、従来の男女の役割について考えられていることがうかがえる。

 本作で描かれる第一次世界大戦は、機銃や爆弾の進化によって、大量の兵士を殺戮することが可能になった後の、最初の戦争といわれる。実際にドイツ軍がベルギーの村で使用した「マスタードガス」という兵器が登場するように、より人道から外れた兵器開発も進んだ。このような発明は、第二次世界大戦の原子爆弾へと繋がっていくことになる。こんな悪魔的な行為に加担しているのは、ワンダーウーマンが一時的に協力するイギリス軍も同様である。軍の司令部では、兵士たちの命をわざと犠牲にすることで戦局を有利にする算段を立てているのである。

 そんな命令のもとで命を投げ出さざるを得ない男たちには、この先の未来が存在していたはずである。そしてそれは、その帰りを待つ女たちの未来をも奪ってしまうことにもなる。そんな戦いが果たして国のためになるのだろうか。そして、そんな狂った戦争を主導してきたのは男たちであったのもたしかだ。この惨状は、男たちが権力を独占してきたことの結果であるともいえるのだ。そして、それこそが正義であるのだと、戦争を推し進める権力者たちは、男性にも女性にもアナウンスしてきた。

 自国民のこのような戦い方の対極にあるのが、アマゾネスの勇敢な戦闘だ。本作のワンダーウーマンの戦いというのは、ワンダーウーマンが女性だからこそ反逆することのできる、“男性の歴史”への断罪であるともいえよう。

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