山崎貴脚本作品に通底する“血の継承” 『STAND BY ME ドラえもん2』が描く豊かな未来

『SBM ドラえもん 2』通底する血の継承

 一方で、本作には難しい面も多くみられた。1970年ほどを舞台にしており、その約10年弱前に遡った過去は良しとしても、未来の世界は現代よりも発展しすぎているのがノイズになった人もいるのではないだろうか。『ドラえもん』が連載されていた当初は、科学技術の発展もあり、昨日より今日、今日より明日に豊かな日常が訪れることを信じて疑わない時代だ。あの未来の描写は『ドラえもん』としては適切なものだったのだが、現代では少し笑ってしまう描写にもなりかねない。

 それも『ドラえもん』らしさだとしても、難しいのが原作がすでに50年前の物語であることだ。例えばのび太の幸せはしずかちゃんとの結婚であることは、シリーズの最初に提示されている。ジャイ子との結婚では苦労する未来が待っているのだが、結婚する相手によって未来の成否が決まるという考え方は、現代ではそぐわないだろう。また無条件にのび太を肯定してくれるしずかちゃん像も、現代の女性の在り方としてはトロフィーヒロイン感も出てしまっており、そぐわないような印象も受けてしまう。

 ただし、のび太がしずかちゃんと結婚することをゴールとしないことは、それはキャラクター性、あるいは原作の否定にもつながりかねない。またしずかちゃんはのび太をどこまでも信用してくれるからこそしずかちゃんであり、のび太もその信用に応えようと努力するからこそののび太である。そこを否定すると『ドラえもん』という作品の根幹が崩れるだけに、難しいバランスが求められただろう。

 そして筆者が最も気になったのが「家族とは何か」という問題だ。『ドラゴンクエスト ユア・ストーリー』『ルパン三世 THE FIRST』と、山崎貴が脚本を務めた3DCGアニメ作品が3作続いたが、そのどれもが“血の継承”が、家族ドラマの中心に添えられているように感じられた。この3作は昭和から平成初期に原作が制作されていることもあり、そのような描き方になるのは致し方ない面もあるのかもしれないが、現代の家族像としてはやはりステレオタイプすぎるのではないだろうか。

 映像表現は一級品であることは疑いようもない。手書き作画が主流な日本のアニメ業界において、これほどレベルの高い3DCG表現で魅了してくれる制作スタジオは多くない。その力を最大限発揮するためにも、そろそろオリジナルアニメ作品を発表してほしい。山崎貴という名前と、白組の映像能力には、それだけの力と興行を両立する力があるはずだ。原作から解き放たれたとき、どのような作品を発表するのか、強い興味が沸いた作品だった。

■井中カエル
ブロガー・ライター。映画・アニメを中心に論じるブログ「物語る亀」を運営中。平成アニメの歴史を扱った書籍『現実で勇者になれないぼくらは異世界の夢を見る』(KADOKAWA刊)が発売中。@monogatarukame

■公開情報
『STAND BY ME ドラえもん 2』
現在公開中
原作:藤子・F・不二雄
監督:八木竜一
脚本・共同監督:山崎貴
声の出演:水田わさび(ドラえもん)、大原めぐみ(のび太)、かかずゆみ(しずか)、木村昴(ジャイアン)、関智一(スネ夫)、宮本信子(のび太のおばあちゃん)、妻夫木聡(大人のび太)
主題歌:菅田将暉「虹」(Sony Music Labels Inc.)
配給:東宝
制作:シンエイ動画、白組、ROBOT
制作協力:藤子プロ・阿部秀司事務所
製作: シンエイ動画、藤子プロ、小学館、テレビ朝日、ADKエモーションズ、小学館集英社プロダクション、東宝、電通、阿部秀司事務所、白組、ROBOT、朝日放送テレビ、名古屋テレビ、北海道テレビ、九州朝日放送、広島ホームテレビ、静岡朝日テレビ、東日本放送、新潟テレビ21
(c)Fujiko Pro/2020 STAND BY ME Doraemon 2 Film Partners
公式サイト:doraemon-3d.com

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