瀕死の映画界に下った「最後の審判」? ワーナー&HBO Max大騒動の裏側

ワーナー&HBO Max大騒動の裏側

 当然のように、今回のワーナーの決断に対しては、劇場サイドは大反発の姿勢を見せている。いや、劇場サイドだけではなく、今年9月に劇場を救うために自身の最新作『TENET テネット』を差し出したクリストファー・ノーランは「HBO Maxは最悪のストリーミングサービスだ」(参考:Christopher Nolan Rips HBO Max as "Worst Streaming Service," Denounces Warner Bros.' Plan | Hollywood Reporter)と、ワーナーをかなり強い言葉で非難している。そんなノーランに対して、ワーナー・ブラザースの会長兼CEOのアン・サーノフは「『TENET』の米国の劇場での興収はワーナーが今回の決断を決めた理由の一つ」(参考:Christopher Nolan ‘Very Glad’ ‘Tenet’ Isn’t a Part of HBO Max Shift | IndieWire)と反論。もはや泥仕合の様相を見せている。

 と、ここまで詳細を追っていて虚しくなるのは、本来は世界中にエンターテインメントを供給する役割を担っているはずのハリウッド・メジャーの話であるにもかかわらず、こんなに大事なことが徹頭徹尾、アメリカ国内のマーケットの論理だけで決まっていくように見えることだ。HBO Maxの日本での展開は、北米でのローンチから1年を過ぎても未だまったく不透明。その一方で、今回のアメリカでの発表の直後に、日本のAmazonプライムのサブチャンネルであるスターチャンネルEXにあるHBO作品の配信が年内ですべて終了することが発表された。スターチャンネル本体の方でのHBO作品の放送は続くとのことだが、少なくともストリーミングでの視聴環境に関しては、早くもその悪影響だけが日本にも及んでいる。

■宇野維正
映画・音楽ジャーナリスト。「集英社新書プラス」「MOVIE WALKER PRESS」「メルカリマガジン」「キネマ旬報」「装苑」「GLOW」などで批評やコラムやインタビュー企画を連載中。著書『1998年の宇多田ヒカル』(新潮社)、『くるりのこと』(新潮社)、『小沢健二の帰還』(岩波書店)、『日本代表とMr.Children』(ソル・メディア)。最新刊『2010s』(新潮社)発売中。Twitter

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