『エール』は“朝ドラ”との向き合い方を考えるきっかけに 物語を彩った“音楽”の力

『エール』で考える“朝ドラ”との向き合い方

 もちろん山崎育三郎、古川雄大、井上希美、小南満佑子といったミュージカル畑の面々の活躍をはじめ、主人公の恩師で戦死する森山直太朗、ヒロイン・音を演じた二階堂ふみ、その母・薬師丸ひろ子、音が憧れる不世出の大歌手を演じた柴咲コウなど、「音楽」が物語を彩った力は大きい。

 とはいえ、コロナ禍で数々の変更を余儀なくされる中、回によって、あるいは週によって、全く異なる作品であるかのように、作風もテンションも異なっていたのが『エール』だった。

 「本来であれば、このパートをもっとじっくり描きたかったんだろうな」と感じる点も正直あったし、ドラマとしての一貫性や完成度という点では、継ぎ接ぎだらけの苦しさもあり、パッケージ化されたDVDを何度もこするように観たい作品ではないかもしれない。

 しかし、だからこそ、キャストもスタッフも一丸となって、なんとかこの苦境において物語を最後まで視聴者に届けようとする熱意・視聴者たちへの「エール」が痛いほど伝わってきた。

 休止期間中の出演者の「副音声」も、最終回まるまる1回分を使ったコンサートもそうした思いの表れだったろう。また、最終回で西洋音楽の作曲家・小山田耕三を演じる志村けんの笑顔が「ミラーショット」として初出し映像で登場したこと、手紙によって自身の裕一への嫉妬心を懺悔し、それに裕一は感謝の気持ちで応えるという奇跡的な「回収」も、この作品が視聴者に与えてくれた大きなエールとなっている。

 そして、そんなキャスト・スタッフの心意気をリアルタイムに感じながら、「頑張ってほしい」「完走してほしい」と視聴者もエールを送り続けたのが、この作品だった。

 これは、ヒロインの成長を見守るという長きにわたる朝ドラと視聴者のあり方をはるかに超える、強く深い結びつきである。主人公の性格や人生・作品の一貫性や完成度といった、一般的な「ドラマ」に求める物差しとは別の一体感、ライブ感と高揚感、充足感が、そこにはあった。

 「朝の時間帯に、視聴者を元気にしてくれる」という原点でありつつ、これまでにない一体感をもって、時代に、人々に寄り添い続けた『エール』。そのあり方は、朝ドラの歴史において、大きな一歩として刻まれたはずだ。

■田幸和歌子
出版社、広告制作会社を経てフリーランスのライターに。主な著書に『KinKiKids おわりなき道』『Hey!Say!JUMP 9つのトビラが開くとき』(ともにアールズ出版)、『大切なことはみんな朝ドラが教えてくれた』(太田出版)などがある。

■放送情報
連続テレビ小説『エール』総集編
NHK総合
12月31日(木)前編 14:00〜15:23
12月31日(木)後編 15:28〜16:56

NHK BSプレミアム
12月29日(火)前編 7:30〜8:53
12月30日(水)後編 7:30〜8:58

NHK BS4K
12月28日(月)前編 9:45〜11:08
12月28日(月)後編 11:08〜12:36

出演:窪田正孝、二階堂ふみほか
写真提供=NHK
公式サイト:https://www.nhk.or.jp/yell/

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