繊細な悪役に定評あり 『ファンタビ』新グリンデルバルド役マッツ・ミケルセンの魅力を徹底解剖

壊れた蛇口のように止めどなく溢れ出てくるフェロモンの正体

 マッツから流れてくるものは、狂気だけではない。エロスだ。当てられた全人類の心拍数を心配してしまう、警戒度最高レベルのフェロモン。薄い唇、少しシワのある繊細な目元、鼻筋の通った端正な顔立ちをしているマッツだけど、このフェロモンは顔以外の部分、特に肉体から発せられているように思う。

 もともと体操選手になろうとしていた彼は、後にスウェーデンのヨーテボリにあるバレエアカデミーに所属。デンマークに戻り、オーフス演劇学校に所属し俳優としての道を歩み始めるまで、彼は約10年間もの間プロのダンサーとして活躍していた。そんなキャリアがあるからこそ、彼の姿勢や動作は常に美しく無駄がない。それに単純な筋トレとは違い、バレエの場合は全身のありとあらゆる細かい筋肉を使うことが求められ、とくにインナーマッスルが重要になってくる。そういう体作りをしているからこそ、アクションをする時も早い動きと力強さが出せるのだ。

『POLAR/ポーラー 狙われた暗殺者』予告編

 現在も50代半ばとは思えない、胴の太いがっしりした筋肉質の体型を保つ彼は日常的に身体を動かすのが好きで、そのため私服がほぼ全部ジャージという茶目っ気もある(お気に入りはアディダス)。子供の頃はブルース・リーになることを夢見ていたマッツの凶器的な肉体美を拝むのであれば、『ポーラー』を是非お勧めしたい。くれぐれも、お父さんお母さんとは一緒に観ないように。

悪役をやらせたらピカイチ

『ドクター・ストレンジ』(c)2017MARVEL

 狂気と上品さ、エロスを兼ね備えた男が悪者を演じたら、それはもう最強だ! ダニエル・クレイグ版ボンド映画の1作目『007/カジノ・ロワイヤル』(2006年)では犯罪組織の会計責任者ル・シッフルを好演。色素の薄い瞳をした片目から、血の涙が止めどなく流れてしまうヘモラクリアという体質の悪役で、その神経質な雰囲気と血も涙もない拷問をするサディスト具合はマッツだからこそ出せたもの。

 彼の演じた悪役でもう一人印象的だったのは、『ドクター・ストレンジ』(2016年)のカエシリウス。エンシェント・ワンの一番弟子だったのに、暗黒次元を支配する邪悪な存在ドルマムゥの持つ力に魅せられ、離反する。しかし彼は単純に自分が最強の魔術師になるために、闇の力を求めたのではない。その背景には、亡くなってしまった妻と子供を蘇らせたいという、悲しい動機があるのだ。家族を失ってから永遠の命を求めてワンに弟子入りしたのに、彼女がそれを可能とする闇の魔術を禁じていたので、背いた。

 ル・シッフルにも、彼がヘモクラリアになったと思われる過酷な過去があるはずだ。組織からのプレッシャーも凄まじい。緊張によって顔が強張っていたり、吸入器を頻繁に吸引したりと、繊細さを感じる。どちらかというと、傷を負った獣の凶暴さというか。そういう一筋縄ではいかない、深みのある悪役を演じることにマッツは長けているのだ。

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