『恋する母たち』が描くいろいろな恋の形 吉田羊演じる優子の過去も明らかに

『恋する母たち』が描くいろいろな恋の形

 そして優子は1人、静かに千葉支店への転勤を引き受けていた。営業としての経験を積むことでいよいよ役員候補としての歩みを進めるためだが、何よりも赤坂との関係を断つためだった。しかし、そんな優子に与論島へと立とうという大介から、研に恋をしていることをカミングアウトされる。

 大介の恋心に、まったく察することができなかった優子。しかし振り返ってみれば、変化は確実にあった。クラスメートになかなか心を開こうとしなかった大介が、研のために率先してテスト対策のプリントを用意していたこと。研と会う時は表情がキラキラとしていたこと……。実際に、繁秋はその密かな想いに気づいて「立つ前に会ったほうがいい」と背中を押していた。でも、優子がそこに意識がいかなかったのは、自分の恋に夢中になっていたからだろうか。

 手の置き場に困ったような落ち着かない様子から、いかに勇気が必要な告白だったかが伝わってくる。立場上、秘めなければならないのは、母たちの恋愛であるはずなのに。実際は、むしろ楽しんで語り合っていた。だが、大介の恋は法に触れることもないのに、こんなにも怯えて苦しんでいる。人を愛する気持ちは尊いものなはずなのに……その不条理な現実に胸が詰まる。

 このドラマを観ていると、実にいろいろな形の恋があるのだとつくつづく考えさせられる。杏と斉木は同じ傷を持つ慰め合う恋。まりと丸太郎はまるで精神年齢的に親子のように甘え、甘えさせる恋。赤坂と優子は性欲的に求め合う恋。大介から研に向けられた淡い恋もあれば、繁樹とのり子の征服欲的な恋も……。どれも「めんどくせぇ」ことにしかならないのに、恋は突然やってくる。

 感情は事情を理解してくれない。だから、タブーとされる恋もあるけれど、その全てを否定しなくてもいいのではないかと、優子の美しい涙が訴える。だが、それでも誰かを傷つける恋は、その代償を払うことになるのだ。杏はあれだけ「自分がされて嫌なことはしないで」と言いながら、元夫・慎吾に助けを求められ、斉木と似たような状況になり、まりは「平気でウソをつく夫にうんざり」と言いながらテレビの前で家庭円満を演じた結果、のり子の逆襲に遭う。そして優子は、シゲオの支えも、赤坂の癒やしもない状況で、不慣れな営業職に奮闘する。深入りするほど、そのツケが大きくなることを肝に銘じながら、それぞれの恋の行き着く先を見届けたい。

■放送情報
金曜ドラマ『恋する母たち』
TBS系にて、毎週金曜22:00〜22:54放送
出演:木村佳乃、吉田羊、仲里依紗、小泉孝太郎、磯村勇斗、森田望智、瀧内公美、奥平大兼、宮世琉弥、藤原大祐、渋川清彦、玉置玲央、矢作兼、夏樹陽子、 阿部サダヲ
原作:柴門ふみ『恋する母たち』(小学館 ビックコミックス刊)
脚本:大石静
チーフプロデューサー:磯山晶
プロデューサー:佐藤敦司
演出:福田亮介
製作:TBSスパークル、TBS
(c)TBS

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