『鬼滅の刃』猗窩座役はなぜ石田彰だったのか 渚カヲル、我愛羅など過去に演じたキャラとの共通項

『鬼滅の刃』猗窩座は石田彰の代表作に

悪役声優界は、個性派のベテラン揃い

 アニメ史上最強の悪役と聞いて、真っ先に浮かぶのはきっと『ドラゴンボール』のフリーザだろう。声優・中尾隆聖が演じたフリーザの声は、甲高く丁寧な口調が逆に嫌味で憎たらしいものの、それがかえって人気となり、フリーザを中心にした映画『ドラゴンボールZ 復活の「F」』が制作されたほど。ほかにも中尾は、『アンパンマン』のばいきんまんや『BLEACH』の涅マユリなどを演じており、声が声が個性的なら演じる役柄も個性的な顔ぶれだ。

 中尾と同様に『ドラゴンボール』のセルや『コードギアス』のシャルル・ジ・ブリタニア皇帝など、独特の巻き舌口調でクセの強い悪役を演じて知られるのが若本規夫だ。あの独特な口調は『人志松本のすべらない話』(フジテレビ系)のナレーションでも聞くことができ、実にユーモラスにも感じるが、こと悪役というキャラクターにおいては得体の知れない恐怖を感じさせる。

 ほかに『ジョジョの奇妙な冒険』のディオ・ブランドー役の子安武人、『ゴールデン・カムイ』の鶴見中尉を演じる大塚芳忠、『ワンピース』の黒ひげを演じる大塚明夫、『ドラゴンボールZ』のザーボンや『食戟のソーマ』の薙切薊を演じる速水奨など。ひと言で誰の声か分かるほどの個性を持った、超が付くほどのベテランばかりが、悪役には名を連ねている。声優の個性の強さは、時として役に入り込めない一因にもなるが、全フリすることでむしろ役を際立たせている。石田の言う「極端さ」は、きっとそういうことなのだろう。またそれを実践するにはかなりのキャリアが必要であることは、悪役を演じているのがベテラン揃いの声優陣であることからもうかがえる。

 声優に限らず、道を極めた役者が口を揃えて言うのは、「次は悪役をやってみたい」ということだ。突き抜けた悪役には人間味に溢れた魅力的なキャラクターが多く、演じがいがあるという。たとえばバットマンの敵役=ジョーカーは顕著で、ほかにもダース・ベイダーやハンニバル・レクターなど、もとは良識ある善人が何かのきっかけで悪に転じた時ほど怖いと感じさせるキャラクターは多い。『鬼滅の刃』に登場する猗窩座をはじめとした鬼も、もとは人間で鬼になった経緯はどれも悲劇的だ。

 映画『ジョーカー』ではジョーカーがいかにして悪に墜ちていったのかが実に生々しく描かれ、主人公を演じたホアキン・フェニックスの日本語吹き替えを、『TIGER & BUNNY』の虎徹を演じて以降、気の良いおじさん役に定評がある平田広明が担当した。平田は『ワンピース』のサンジ役でも知られ、悪と正義が表裏一体であるように、正義の役で輝ける役者は悪役で輝けることがわかる。逆もまた然りだ。石田も同様に両極の役柄を数多く演じているが、これだけ多くの悪役を演じているにも関わらず、悪役声優界ではまだまだ若手の部類に属する。しかしいずれは中尾や若本に代わって、悪役声優界の頂点に立つ日がくるだろう。

■榑林史章
「山椒は小粒でピリリと辛い」がモットー。大東文化大卒後、ミュージック・リサーチ、THE BEST☆HIT編集を経て音楽ライターに。演歌からジャズ/クラシック、ロック、J-POP、アニソン/ボカロまでオールジャンルに対応し、これまでに5,000本近くのアーティストのインタビューを担当。主な執筆媒体はCDジャーナル、MusicVoice、リアルサウンド、music UP’s、アニメディア、B.L.T. VOICE GIRLS他、広告媒体等。2013年からは7年間、日本工学院ミュージックカレッジで非常勤講師を務めた経験も。

■公開情報
『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』
全国公開中
声の出演:花江夏樹、鬼頭明里、下野紘、松岡禎丞、日野聡、平川大輔
原作:吾峠呼世晴(集英社『週刊少年ジャンプ』連載)
監督:外崎春雄
キャラクターデザイン・総作画監督:松島晃
脚本制作:ufotable
サブキャラクターデザイン:佐藤美幸、梶山庸子、菊池美花
プロップデザイン:小山将治
コンセプトアート:衛藤功二、矢中勝、樺澤侑里
撮影監督:寺尾優一
3D監督:西脇一樹
色彩設計:大前祐子
編集:神野学
音楽:梶浦由記、椎名豪
主題歌:LiSA「炎」(SACRA MUSIC)
アニメーション制作:ufotable
配給:東宝・アニプレックス
(c)吾峠呼世晴/集英社・アニプレックス・ufotable
公式サイト:https://kimetsu.com
公式Twitter:@kimetsu_off

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