脚本家・野島伸司、なぜアニメ畑へ? 90年代に風靡した脚本家が抱える齟齬

 実際に『ワンダーエッグ・プライオリティ』への期待について成馬氏は、以下のように続ける。

「ティザー映像を観ましたが、2000年代に流行った美少女ゲームやライトノベルを原作とする深夜アニメのような雰囲気を感じます。長井龍雪監督の深夜アニメ『あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。』や、新海誠監督のアニメ映画『君の名は。』『天気の子』のテイストに近いのかなと思います。テレビドラマでは過激とされる表現も、深夜アニメならまだまだ許されるので、野島さんも思いっきり描きたいものを書けるのかもしれません」

完全新作オリジナルTVアニメーション「ワンダーエッグ・プライオリティ」ティザーPV

 また、成馬氏は野島がすでにアニメ界に与えている影響について、以下のように言及した。

「村上春樹と野島伸司に影響を受けている漫画やアニメって、実は多いのではないかと思います。新海誠監督の一連の作品や、幾原邦彦監督の『輪るピングドラム』や『さらざんまい』が描いてきた、家族や社会に阻害されて、心に傷を抱えた少年少女が、疑似家族を形勢していく物語は、野島さんが『高校教師』や『未成年』で描いてきた世界と近いものがあります。その意味でも野島伸司自身が、とてもアニメ的な想像力を持った作家だと言えます」

 そしてもう一つ引っかかったのが、野島の「アニメやゲームは日本が世界に誇れるエンターテインメントであり、リテラシーの高いアニメファンと向き合える事を嬉しく思います」という言葉だ。

「今は世の中の価値観が激変している時期で、その影響を受けて、ドラマの作り手も『MIU404』(TBS系)などの脚本を手掛ける野木亜紀子さんを筆頭に、新しい世代の脚本家の方が活躍されています。岡田惠和さんや遊川和彦さんのように時代に合わせて作風を変えていける方もいますが、野島さんや北川悦吏子さんのような、90年代に一斉を風靡した脚本家の方たちは、今までの作風と時代の間に生まれた齟齬に苦しんでいるという印象です。ただ、必ずしも時代とマッチしていることだけが正解とは思いません。野島さんの場合は、むしろ時代とズレていることに存在意義があるのだと思います。そんな、時代とズレた野島作品に居場所を感じている人もいるはずなので。今は映像文化自体が世代ごとに枝分かれしており、ドラマも映画も若者向けから年輩向けまで幅広く存在し、良くも悪くも裾野が広がっています。それはアニメも同様で、その意味で野島さんを受け入れる豊かさがアニメにはあると思います。ですので、野島さんには力を存分に発揮できる場所で書いてほしいですね。脚本家としての力量は確かなので、観ている人を唸らせるような、圧倒的な作品を期待しています」

 2021年1月に日本テレビ系にて放送予定の『ワンダーエッグ・プライオリティ』がどんな作品なのか、そして今後の野島にとってどんな作品になっていくのか、いまから楽しみだ。

■放送情報
『ワンダーエッグ・プライオリティ』
日本テレビほかにて2021年1月放送
原案・脚本:野島伸司
監督:若林信
キャラクターデザイン・総作画監督:高橋沙妃
企画プロデュース:植野浩之(日本テレビ)・中山信宏(アニプレックス)
制作:CloverWorks
公式サイト:https://wonder-egg-priority.com/
公式Twitter:WEP_anime(https://twitter.com/wep_anime)
(c)WEP PROJECT

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