煉獄さんが観客の心に灯した炎 猗窩座への台詞に込められた『鬼滅の刃』無限列車編のテーマ

煉獄さんが観客の心に灯した炎

 煉獄さんの強さを印象づけるように、彼の無意識領域には常に“炎”が燃えている。その炎は、彼が生前の母から教えられた「弱き人を助けることは強く生まれた者の責務」という信念の現れだろう。そして、先日劇場版に登場することが正式に発表された上弦の鬼・猗窩座の前でも煉獄さんが持つ心の炎が弱まることはない。命を落とす間際、鬼になれば強さも命も失うことはないと猗窩座から選択肢を突きつけられても、彼は最後まで強き人間として生を全うすることを選んだ。

「老いることも死ぬことも。人間という儚い生き物の美しさだ。老いるからこそ死ぬからこそ、たまらなく愛おしく尊いのだ。強さというものは肉体に対して使う言葉ではない」

『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』公開中PV

 煉獄さんが猗窩座に言ったその台詞は、無限列車編の物語を貫くテーマでもある。強さは決して肉体的なものだけではない。炭治郎は猗窩座より、煉獄さんよりも肉体的面で弱いかもしれないが、幸せな夢から自分の力で目覚め、悲惨な現実に立ち向かおうとした精神的な強さを誰よりも持っていた。同じように“死”にも、肉体的な死と精神的な死のふたつが存在する。煉獄さんは猗窩座と戦った末に命を落としたが、彼の精神は炭治郎や伊之助、善逸の心に宿った。鬼は生き続けることでしか自分の存在を保つことはできないが、人間は心に宿した炎を死後も誰かに灯すことができる。

 煉獄さんは今後ラスボスである鬼舞辻無惨に立ち向かう炭治郎たちに、そして先の見えない現実で生きる私たちにもその強さを分け与えてくれた。もちろんその強さは向こう見ずのマッチョイズム的なものではなく、自分の弱さを認められる覚悟であったり、誰かを幸せにしたいと願う優しさだったりする。アニメ本編で生きている彼に会えないのは寂しいが、少なくとも映画を観た300万人以上の心に炎が宿り、そっと「心を燃やせ」と煉獄さんが語りかけてくれるだろう。

※禰豆子の「禰」は「ネ」に「爾」が正式表記。
※煉獄杏寿郎の「煉」は「火」に「東」が正式表記。

■苫とり子
フリーライター/1995年、岡山県出身。中学・高校と芸能事務所で演劇・歌のレッスンを受けていた。現在はエンタメ全般のコラムやイベントのレポートやインタビュー記事を執筆している。Twitter

■公開情報
『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』
全国公開中
声の出演:花江夏樹、鬼頭明里、下野紘、松岡禎丞、日野聡、平川大輔、石田彰
原作:吾峠呼世晴(集英社『週刊少年ジャンプ』連載)
監督:外崎春雄
キャラクターデザイン・総作画監督:松島晃
脚本制作:ufotable
サブキャラクターデザイン:佐藤美幸、梶山庸子、菊池美花
プロップデザイン:小山将治
コンセプトアート:衛藤功二、矢中勝、樺澤侑里
撮影監督:寺尾優一
3D監督:西脇一樹
色彩設計:大前祐子
編集:神野学
音楽:梶浦由記、椎名豪
主題歌:LiSA「炎」(SACRA MUSIC)
アニメーション制作:ufotable
配給:東宝・アニプレックス
(c)吾峠呼世晴/集英社・アニプレックス・ufotable
公式サイト:https://kimetsu.com
公式Twitter:@kimetsu_off

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