『映画 ギヴン』『海辺のエトランゼ』にみる、BLアニメーションの時代に合わせた多様化

 これまでは娯楽の分野を抜け出ず、エンタメ作品として認知されていたBL作品だが、最近はその枠を飛び越え、“リアルで痛切なラブストーリー”としての様相を見せ始めてきている。

 先に挙げた『海辺のエトランゼ』シリーズでは、自身がマイノリティであることへの葛藤が描かれ、『ギヴン』では解像度の高い心情描写が幾重にも折り重なり、複雑でドラマチックなストーリーを構成している。これらは今を生きる若者世代の心情と密接にリンクし、当事者であってもそうでなくてもどこかで登場人物たちに感情移入ができるという構図を成している。

 そう考えてみるとやはり、昨今のBL作品が男女世代問わず観られていることにも納得がいく。社会的に大きなウェーブを形成している“LGBTQへの理解”というものに、さらに作品自体が持つ“読み手に訴えかける感情描写”が合わされば、感情を揺さぶられ、共鳴する層に性別や年代というものは関係なくなる。

 ごく限られた層の中での嗜み、趣味嗜好の範疇とされてきたBLが、“1つのリアルな物語”“フィクションから共感できるもの”へと変わりつつある。テンプレートから逸脱しない傾向から多様化を尊重する傾向へと変化の兆しを見せている中で、読み手側も作品にあわせて、そして時代に合わせて多様化の一途をたどっている。

 私たち1人ひとりの考え方、他者への理解と受容はこれからも多様化し、未来に向けてより複雑なものへと変化していくだろうが、BL作品のメディア展開から社会を見渡してみると、そこに希望の道筋が見えてくるかもしれない。

■安藤エヌ
日本大学芸術学部文芸学科卒。文芸、音楽、映画など幅広いジャンルで執筆するライター。WEB編集を経て、現在は音楽情報メディアrockin’onなどへの寄稿を行っている。ライターのかたわら、自身での小説創作も手掛ける。

■公開情報
『海辺のエトランゼ』
全国公開中
声の出演:村田太志、松岡禎丞、嶋村侑、伊藤かな恵、仲谷明香、佐藤はな
原作:紀伊カンナ『海辺のエトランゼ』(祥伝社on BLUE comics)
監督・脚本・コンテ:大橋明代
キャラクターデザイン・監修:紀伊カンナ
アニメーション制作:スタジオ雲雀
配給:松竹ODS事業室
(c)紀伊カンナ/祥伝社・海辺のエトランゼ製作委員会 (c)紀伊カンナ/祥伝社 on BLUE comics
公式サイト:etranger-anime.com
公式Twitter:@etranger_anime

 『映画 ギヴン』
全国公開中
声の出演:矢野奨吾、内田雄馬、中澤まさとも、江口拓也、浅沼晋太郎
原作:『ギヴン』キヅナツキ(新書館『シェリプラス』連載中)
監督:山口ひかる
脚本:綾奈ゆにこ
キャラクターデザイン:大沢美奈
総作画監督:永田陽菜/二宮奈那子
美術設定:綱頭瑛子
美術監督:岡本綾乃/大西達朗
色彩設計:加口大朗
撮影監督:芹澤直樹
CG監督:水野朋也
編集:伊藤利恵
音響監督:菊田浩巳
音楽:未知瑠
アニメーションプロデューサー:比嘉勇二/秋田信人
アニメーション制作:Lerche
主題歌:センチミリメンタル「僕らだけの主題歌」
配給:アニプレックス
(c)キヅナツキ・新書館/ギヴン製作委員会
公式サイト:given-anime.com
公式Twitter:@given_anime

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