『ミッドナイトスワン』初登場6位 草なぎ剛に集まる絶賛と「ネットの声」問題

『ミッドナイトスワン』の「ネットの声」問題

 しかし、自分が最も違和感を覚えるのは、そうした作品を実際に作品を観た観客の声ではなく、ソーシャルメディアの持つ特性がブースターとなって、作品を観ていない人の声が大きくなりすぎていることだ。そういう野次馬の多くは、ネットの「炎上」に参加することが目的化していて、基本的な事実の認識にさえ興味を示さない。今回も、本作とは直接関係のない、昨年配信されたNetflixのテレビシリーズ『全裸監督』の倫理的問題まで改めて内田英治監督に問いただすような書き込みも数多く見られた(『全裸監督』の総監督は武正晴監督。内田英治監督は脚本の一部と2つのエピソードの演出を担当したのみ)。

 近年、ハリウッドではトランスジェンダーの役をそうではない役者が演じること自体が問題視されている。現実として、スカーレット・ヨハンソンやハル・ベリーのような大女優が、そのことを理由に役を降板するといった事態も起こっている。また、Netflixの『トランスジェンダーとハリウッド 過去、現在、そして』(『ミッドナイトスワン』に感動した方は是非観てください)に詳しいが、その背景や意義を知れば、ハリウッドに限らず世界中の映画界が今後その基準へと向かっていくであろうことは理解できるはずだ(その副作用として、トランスジェンダーというテーマを扱う大作が減る可能性も十分に考えられるが)。

 日本でもそうしたハリウッドの最新の動きを知っている人の中には、「『ミッドナイトスワン』のような作品を観ない」という判断をする人もいるだろう。それは、自分にも理解できる。しかし、それと「作品を観ないで大きな声を上げる」こと、ましてや強い言葉でキャンセルを叫ぶことは、別の話だ。今回の場合は、監督のTwitterでの投稿が「売り言葉に買い言葉」になった側面も大いにあるが。

■宇野維正
映画・音楽ジャーナリスト。「装苑」「GLOW」「キネマ旬報」「メルカリマガジン」などで批評やコラムを連載中。著書『1998年の宇多田ヒカル』(新潮社)、『くるりのこと』(新潮社)、『小沢健二の帰還』(岩波書店)、『日本代表とMr.Children』(ソル・メディア)。最新刊『2010s』(新潮社)発売中。Twitter

■公開情報
『ミッドナイトスワン』
TOHOシネマズ 日比谷ほかにて公開中
出演:草なぎ剛、服部樹咲(新人)、田中俊介、吉村界人、真田怜臣、上野鈴華、佐藤江梨、平山祐介、根岸季衣、水川あさみ、田口トモロヲ、真飛聖
監督・脚本:内田英治
配給:キノフィルムズ
(c)2020 MidnightSwan Film Partners
公式サイト:midnightswan-movie.com

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「興行成績一刀両断」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる