HBOはなぜ往年の名作を蘇らせた? 現代と深くリンクする『ペリー・メイスン』のテーマ

現代と深くリンクする『ペリー・メイスン』

奇しくもコロナ禍の現在に通じるメッセージ

 本作後半の注目は、クライマックス第7話、8話も当然だが、そこに至るまでの怒涛のドライブ感醸成を一手に担ったデニス・ガムゼ・エルギュヴェン監督回である(『裸足の季節』『ハンドメイズ・テイル/侍女の物語』など)第4話~第6話。真実に迫れば迫るほど、検察と警察の思惑に絶望するペリー、EB、被疑者、ピートとそれでも諦めない秘書デラ・ストリート(ジュリエット・ライランス) 、警察の腐敗と人種差別に屈するのか葛藤する黒人警官ポール・ドレイク(クリス・チョーク)、それぞれの想いを細かく描き切った手腕は素晴らしい。何よりも黒幕に抗う彼らが純粋潔白では全くなく、全員が不器用で過去への後悔を抱えているところが切実だった。

 彼らは、正しいことしかしたことない人だけが正義を求めるのではなく、過去の自らの行いに対する償いとして、ある種背水の陣として正義を求めていく。しかも今回の事件を通して償いたい過去は全員全く別のもの。世界恐慌中という、奇しくも現在のコロナ禍にも似た、世界が不安に苛まれる時代に、ただ事件解決に奔走するのではなく、自分自身の心の救済として正しさを求めるキャラクターたちへの感情移入はただならぬものがある。

 そのキャラクターたちのなかでも、極めつけは新興宗教団体のカリスマ福音伝道師シスター・アリス(タチアナ・マズラニー)だ。狂信的な妖しい女性としてだけ描くのではなく、彼女もまた一人の人間として掘り下げるストーリーラインは、今回のリメイクの中でも革新ともいえる。たびたび登場するシスター・アリスが信者を煽動する場面では、殺害された乳児の母親エミリー(ゲイル・ランキン)をはじめ、狂信的な信者が盲目なまでに彼女にすがり、救いを求めてるようで危うさもある。そして、本作では最終話に向け思いがけない一面を見せていくところが面白い。シスター・アリスと自身の母との関係、エミリーの交流を描きながらのラストは、それまでに抱いたシスター・アリスへの感情をいい意味で裏切ってくれる展開になっている。私たちがメディアに触れる度に過剰な煽動に飲み込まれていないか、自分が思う正しさは一体何を持って正しさとしているのか……今一度自分自身の視点の持ち方を考えさせてくれる最終話は必見だ。

 2020年は国内外問わず暗いニュースばかりだ。しかしその中で、絶望する社会に対して今自分に何ができる点のか、本当に目の前の情報は正しいのか……そういった視点を持って本作を観ることで、この時代に敢えて往年の名作をリメイクした理由が見えてくる。期せずして現代と深くリンクしたストーリーは高く評価され、すでにシーズン2の製作も公式発表されている。ぜひ今に通じる部分を頭の片隅に置きながら楽しんで頂きたい。

■キャサリン
Netflix、Amazonプライムビデオ等のストリーミングサービスで最新作を追いかける海外テレビシリーズウォッチャー。webメディアなどで執筆。noteTwitter

■配信・放送情報
『ペリー・メイスン』(全8話)
【配信】
スターチャンネルEXにて配信中
【放送】
字幕版:BS10 スターチャンネルにて10月27日(火)23:00より放送予定
※10月25日(日)第1話無料放送
吹替版:BS10 スターチャンネルにて11月4日(水)22:00より放送予定
※11月4日(水)第1話無料放送
製作総指揮;ロバート・ダウニーJr.、スーザン・ダウニーほか
監督・製作総指揮;ティモシー・ヴァン・パタンほか
出演:マシュー・リス、タチアナ・マズラニー、ジョン・リスゴー、ジュリエット・ライランス、クリス・チョーク、シェー・ウィガム、ゲイル・ランキン、ネイサン・コードリー、スティーヴン・ルート、アンドリュー・ハワード
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スターチャンネルEX -DRAMA & CLASSICS:https://www.amazon.co.jp/channels/starch 
BS10 スターチャンネル:http://www.star-ch.jp

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