先週末の影のナンバーワン作品『ムーラン』を巡る、配信ビジネスの事情と政治問題

『ムーラン』配信ビジネスの事情と政治問題

 先週末の動員ランキングは1位から4位まで変動なし。2週連続1位となったのは土日2日間で動員19万人、興収2億5500万円をあげた『事故物件 恐い間取り』。先週末までの累計で動員78万3000人、興収10億4000万円と、早くも10億円を突破している。今週末の公開予定作品の中にもそこまで強力な作品はないので、まだまだ好調が続きそうだ。

 さて、そんな『事故物件』の19万人、2億5500万円という週末成績を前にして、自分がどうしても思い浮かべてしまうのは「影のナンバーワン作品」のことだ。言うまでもない、同じ週末、9月4日(金)にアメリカ、カナダ、日本をはじめとするディズニープラスのサービスが開始されている国(以前にも取り上げたように、現状、日本のディズニープラスのサービス内容は大きく見劣りするものだが)で配信リリースされた『ムーラン』のことだ。同作をディズニープラスで見るためには有料会員になった上で3278円(税込)のプレミアアクセス料金が必要となるが、試しに『事故物件』の先週土日2日間の興収を『ムーラン』の視聴料金で割ってみると、約7万8000世帯。どんなに少なく見積もっても、『ムーラン』はそれ以上の世帯で視聴されているだろう。

 モバイルアプリのデータ分析会社Sensor Towerの調査によると、アメリカではその前週からディズニープラスのダウンロード数が68%増加し、『ムーラン』のプレミア配信が始まった9月4日から9月6日までのアプリ収入は193%増加したとのこと(参考:‘Mulan’ Release Leads To 68% Jump In Disney+ Downloads, Despite Extra Fee To Watch Movie)。現在のところウォルト・ディズニー社は具体的な数字を発表していないが、おそらく今回の『ムーラン』の配信リリースはビジネス的には成功という位置付けになるのは間違いない。というのも、もちろん2億ドルもの製作費が投じられた作品だけに、作品単体でどれだけの収益を上げるかということも重要ではあるが、まだサービスを開始して間もないディズニープラスにとっては、『ムーラン』がサービス加入者増のきっかけとなれば、もうその時点で大成功なのだ。

 もっとも、『ムーラン』に関しては、配信後にエンドロールのクレジットから、人権侵害の嫌疑がかけられている新疆ウイグル自治区で撮影がおこなわれていたことが判明し、ディズニープラスのサービスがまだ始まっていない(つまり劇場公開された、あるいは今後される)台湾、香港、タイなどでボイコット運動が起こっている。同作を巡って大きな政治問題となったのは、昨年8月に主演のリウ・イーフェイが中国のソーシャルメディア、ウェイボーで香港の反政府デモに関して香港警察への支持を表明した時に続くものだ。

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