『太陽の子』は未来を思い描くきっかけに  柳楽優弥を奮い立たせた有村架純と三浦春馬さんの存在

『太陽の子』は未来を思い描くきっかけに

 一方、世津は空襲被害を防ぐために生まれ育った家を取り壊され、修の家へと居候を余儀なくされる。「戦争は日本を良くするためにしているはず」。そう言い聞かせながら、気丈に目の前の仕事をこなしていくが、人々の思い出が詰まった住まいを失ってまで、得られるより良い国とは何なのか。有村が未来を見据えるまっすぐな視線は、このドラマから発するメッセージそのものだ。

 そして、軍人として一度は出陣したものの、肺の療養のために一時帰宅してきた裕之。彼は家族の前では努めて明るく接するが、再び戦地に向かわなければならない運命に1人絶望する。この戦いに大義はあるのか。自分の命を投げ捨てでも、手に入れたいものとは何なのか。三浦が、この作品に出演した意味の大きさに、思わず胸が詰まる。

 修、世津、裕之が生きたあの夏から、75回目の夏。私たちは、より良い世界に生きているだろうか。幸せだろうかと、自らに問わずにはいられない。

 今年、人類は未知のウイルスの脅威に晒された。例年の夏よりも、きっと「こんなふうに、あの戦争中も世の中が大きな流れに飲まれていったのだろうか」と想像できる。

 こんなことがなければ、楽しく学べていたのに。好きな場所で笑えていたのに。そして、もっと生きるはずだったのに……。「一体なぜこんなことになったのか」と天を仰がずにはいられない日々を、今も過ごしている人たちがいる。そう思うと『太陽の子』が見せる人々の生きる姿は、決して75年も前の過去ではないように感じる。

 あの戦争が終わったように、私たちが今闘っている日々も、やがて終わると信じている。そのときに、何がしたいか。目の前の絶望に飲み込まれてしまわぬように、たくさん未来の話をしよう。『太陽の子』は、重く苦しいドラマだ。決して無理をせずに、観てほしい。だが、この作品は痛ましい記憶を語り継ぎながら、未来を思い描くきっかけとなってくれることだろう。そしてほんの小さな希望でもいい。その光がたくさんの人の胸に宿ることを、心から願っている。

■放送情報
『太陽の子』
NHK総合、BS8K、BS4Kにて、8月15日(土)19:30〜20:50放送
BS8Kにて、7月11日(土)15:00〜16:20先行放送
出演:柳楽優弥、有村架純、三浦春馬、三浦誠己、宇野祥平、尾上寛之、渡辺大知、葉山奨之、奥野瑛太、イッセー尾形、山本晋也、國村隼、田中裕子ほか
作・演出:黒崎博(NHK制作局)
音楽:Nico Muhly(ニコ・ミューリー)
制作統括:土屋勝裕(NHK制作局)、浜野高宏(NHK編成局)、山岸秀樹(NHK広島局)
共同プロデューサー:Ko Mori(コウ・モリ ELEVEN ARTS)、佐野昇平(KOMODO Productions)
共同制作:ELEVEN ARTS Studios

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「国内ドラマシーン分析」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる