ようやく公開された『映画ドラえもん』新作がハネなかった3つの原因

『ドラえもん』新作がハネなかった3つの原因

 二つめは、テレビでの特番や、声優として参加したタレントのプロモーション露出や、Mr.Childrenによる主題歌(と挿入歌)など、メディアやジャンルを横断した様々なタイアップが、公開が5ヶ月遅れたことであまり機能していないことが挙げられるだろう。特に、今回声優として参加している木村拓哉や、3年ぶりのCDシングルを本作の当初の公開日に合わせてリリースしたMr.Childrenといった「スーパースター」たちとの絡みは、うまくハマれば大いに宣伝効果が得られるが、公開時期がズレたことに合わせてそれぞれの稼働を合わせることは困難。また、そこに視聴率の低下というかたちではっきりと表れている、テレビ朝日が2019年10月におこなった改編(『ドラえもん』の放送時間が金曜夜から土曜夕方に移動した)の失敗と、「今はまだファミリー層向けの映画を大々的に宣伝しにくい」という局側の(謎の)配慮が重なっていることも指摘しておくべきだろう。

 三つめは、その「10月改編の失敗」にも通じる、人々の習慣との兼ね合いだ。ずっと見ていたテレビ番組の放送時間が変わった途端に見なくなった、という視聴習慣の問題があるように、映画においても鑑賞習慣というのはとても大きい。春休みは『ドラえもん』、ゴールデンウィークは『名探偵コナン』、年末は『スター・ウォーズ』、というような「年に2〜3回しか映画館に行かない層」が支えているのが、日本の映画興行。『ドラえもん』の春休みから夏休みへの公開時期の移行による心理的影響は、新型コロナウイルスの影響(もちろんそれがきっかけとなったわけだが)だけでなく、その後に『STAND BY ME ドラえもん 2』(本来は『のび太の新恐竜』が公開された8月7日に公開予定だった。新たな公開日は未定)が控えているなど、様々な事情が重なっての判断だったとはいえ、予想以上に大きかったのではないだろうか。そう考えると、今年6月の段階で早々と丸1年後の公開延期を発表した『名探偵コナン 緋色の弾丸』の判断の方が正解だったと言えるかもしれない。

■宇野維正
映画・音楽ジャーナリスト。「装苑」「GLOW」「キネマ旬報」「メルカリマガジン」などで批評やコラムを連載中。著書『1998年の宇多田ヒカル』(新潮社)、『くるりのこと』(新潮社)、『小沢健二の帰還』(岩波書店)、『日本代表とMr.Children』(ソル・メディア)。最新刊『2010s』(新潮社)発売中。Twitter

■公開情報
『映画ドラえもん のび太の新恐竜』
全国公開中
原作:藤子・F・不二雄
監督:今井一暁
脚本:川村元気
キャスト:水田わさび、大原めぐみ、かかずゆみ、木村昴、関智一、木村拓哉、渡辺直美
主題歌:Mr.Children
配給:東宝
(c)藤子プロ・小学館・テレビ朝日・シンエイ・ADK 2020

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