『MIU404』分岐を誤り転がった先の“現在地” 九重と陣馬のタッグが繋ぎ止めたもの

『MIU404』転がった先の“現在地”

 そして、ケンさんの殺害という罪を重ねて逃走をしていた大熊は、4機捜のベテラン刑事・陣馬(橋本じゅん)によって偶然見つかることになる。結婚が決まった息子の両家顔合わせに向かう途中だったが、見過ごせないと追跡を開始。警察手帳も財布もない状態で無我夢中で追いかけた陣馬が、無事に大熊逮捕に漕ぎ着け、さらに息子の顔合わせも笑顔で途中参加できたのは、相棒である九重(岡田健史)をはじめとした仲間が「現在地」を共有し、発信してくれたから。

 「もっと早く、捕まえられてりゃな」。そうつぶやく伊吹に、陣馬は「完全に閉じちまった人間の手は、つかめないんだよ」となだめる。私たち人間が生きるということは、人と社会と関わりを避けられない。デリバリースタッフが今どこにいるのかリアルタイムで把握することが可能なほどGPS機能が発達している現代でも、人との繋がりは簡単に断ち切れてしまう恐ろしさを、気づかせてくれる。

 分岐を誤り、その繋がりを取り戻すためには、消えてなくなりたいくらいの思いを乗り越えて誰かと向き合うこと。ときには、逮捕されるということが、幸せなルートに再起するきっかけにもなる。倉田は妻と話し合うことを決めて自宅へ。ケンさんが可愛がっていた猫のきんぴらも、彼の家へ。家出少女たちは公共・福祉のサポートを受けることを教わった。それぞれ新しい居場所を見つける方向へとルートが正される。

 だが、このドラマの奥深さは、いい方向へと導くはずだったスイッチが、実は悪い方向へのフラグになる可能性まで示していることだ。第6話で志摩が伊吹の呼び出しに応じたことは、元相棒・香坂(村上虹郎)への後悔を整理するために必要なスイッチだった。だが、その結果、桔梗(麻生久美子)の家に盗聴器が取りつけられ、羽野麦(黒川智花)の現在地が発覚してしまう危機に見舞われる。

 そして、第3話でイタズラ通報を繰り返していた成川(鈴鹿央士)は、動画配信者である特派員REC(渡邊圭佑)に無実だと信じさせることに成功する。もちろん、この“成功”とは成川の視点でのこと。これからの長い人生を考えると、大熊同様に彼の現在地が「誰にも見つからない不幸」の真っ只中にいる。自分が、人生のピタゴラ装置のどこを転がっているのか。当の本人こそ冷静に見つめることができない。

 誰と出会うか、出会わないか。だが、人との出会いの意味だって、自分が生きている意味と同じくらい、実は後づけでしかない。衛星をいくつも経由して位置情報の精度を高めるように、いくつもの人の考えと繋がっていよう。偏った意味づけこそが、立ち位置を見失わせるのだから。

■放送情報
金曜ドラマ『MIU404』
TBS系にて、毎週金曜22:00~22:54放送
出演:綾野剛、星野源、岡田健史、橋本じゅん、黒川智花、渡邊圭祐、金井勇太、生瀬勝久、麻生久美子、黒川智花
脚本:野木亜紀子
演出:塚原あゆ子、竹村謙太郎、加藤尚樹
プロデュース:新井順子
音楽:得田真裕
製作:TBSスパークル、TBS
(c)TBS

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