ディズニー2020年の超目玉作『ムーラン』、「世界各国で配信リリース」の衝撃

『ムーラン』、世界各国で配信リリースの衝撃

 今回の決断についてウォルト・ディズニー・カンパニーのCEO、ボブ・チャペックは「今回限りのもの」としているが、同時に「自社プラットフォームでの実験」「新たなプレミア公開の方法を設計したい」とも語っている。つまり、29.99ドル(米国)でのPVODという今回の『ムーラン』のリリース方式が成功して(その可能性は非常に高いと自分は考えている)、新型コロナウイルスの感染状況にも大きな改善が見られない場合、『ブラック・ウィドウ』などの既に「公開延期→新しい公開日が白紙」となっている他のディズニー作品も追従する可能性があるということだ。

 その衝撃的なニュースが飛び込んでくるまで、今週の当コラムは7月28日に発表された「劇場での公開日から17日後の配信リリースを可能に」というユニバーサルとAMCの間で買わされた複数年契約について取り上げるつもりだった。つまり、『007/ノー・タイム・トゥ・ダイ』も『ワイルドスピード/ジェット・ブレイク』も『クワイエット・プレイス PARTII』も『ジュラシック・ワールド』の新作も『ミニオンズ』の新作も、AMCがシネコンチェーンを展開しているアメリカやヨーロッパや中東では、劇場公開から3週目の週末興行を終えると、すぐに有料配信リリースされるということだ。この動きに関しては、他のメジャースタジオ、大手シネコンチェーンも追従することが確実視されている。

 2020年、映画興行の形態は決定的に変わってしまった。映画館の経営や運営はもう現在のままではいられない。この「映画の歴史」上最大の波は、少々時間差はあるかもしれないが、確実に日本の映画界にも押し寄せてくる。『今日から俺は!!劇場版』や『コンフィデンスマンJP プリンセス編』や『映画ドラえもん のび太の新恐竜』に対して斜に構えているうちに、あなたたちの大好きだった映画館はなくなっていく。

■宇野維正
映画・音楽ジャーナリスト。「装苑」「GLOW」「キネマ旬報」「メルカリマガジン」などで批評やコラムを連載中。著書『1998年の宇多田ヒカル』(新潮社)、『くるりのこと』(新潮社)、『小沢健二の帰還』(岩波書店)、『日本代表とMr.Children』(ソル・メディア)。最新刊『2010s』(新潮社)発売中。Twitter

■公開情報
『ムーラン』
公開日未定
監督:ニキ・カーロ
出演:リウ・イーフェイ、コン・リー、ジェット・リー、ドニー・イェン
オリジナル・サウンドトラック:ウォルト・ディズニー・レコード
日本語吹替版声優:明日海りお、小池栄子、細谷佳正、小野賢章、木村昴、安元洋貴、畠中祐
ジュニア・ノベル:小学館
配給:ウォルト・ディズニー・ジャパン
(c)2020 Disney Enterprises,Inc. ALL Rights Reserved

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