『わたナギ』と『おっさんずラブ』に共通する“らしさ”からの逸脱 脚本・徳尾浩司の手腕を読む

『わたナギ』『おっさんずラブ』の共通点は?

 性差に関係なく、愛する人を想うその真剣さがドラマの魅力になっていた『おっさんずラブ』は、タイトルになっている「おっさん」に対する認識も覆した。『おっさんずラブ』は若者であろうとおっさんであろうと関係ない。性差も年齢差も越えた純粋な愛のドラマだった。そう見えたのは、田中、吉田、林たち俳優たちの力も大きかったのだが、徳尾が書いたベースの脚本が極めてフラットだったことも助けになっていたと思う。

 部屋は散らかり放題で自炊のできない主人公が、家事のできる人に出会って生活が一変するところは『おっさんずラブ』も『わたナギ』も同じ。主人公の私生活を快適にする牧もナギサさんも、じつにさりげなく当たり前のように料理する。ナギサさんにいたっては女性の下着も躊躇なくたたむ。

 徳尾は男が家事する描写になんのバイアスもかけない。いわゆる「男らしさ」「女らしさ」という属性をいっさい登場人物に付けず、料理上手な人、だらしなく甘えん坊な人、仕事ができる人などの特性のみで描き、さらに、「男らしさ」「女らしさ」を利用して目標を達成することもなく、登場人物たちはひたすら懸命に目標に向かって邁進している。これが『おっさんずラブ』の特性だった。

 『わたナギ』が『おっさんずラブ』に近いのは、主人公の会社の人たちの平和的な雰囲気にもある。どちらも、パワハラやモラハラがまったくない。上司も部下もお互いを気にかけて、アットホーム。『おっさんずラブ』では主人公の後輩・栗林歌麻呂(金子大地)や、口うるさい舞香(伊藤修子)、『わたナギ』では後輩・瀬川(眞栄田郷敦)や同僚の薫(高橋メアリージュン)にも見せ場が作られ、チームワークで見せていくところも楽しく見られる要因だと思う。彼らには、恋愛はあっても、愛憎渦巻きドロドロになるということはない。例えるなら、ムーミン谷の人々みたいな無垢さがある(ムーミン谷の人々にも性別はあるのだが)。人間の清いところだけ残った感じなのである。

 ただ、『わたナギ』の場合は、人々がそこまで除菌消臭する以前のドラマで、メイもナギサさんも「おじさん」というものの先入観に縛られているし、薫は結婚するために料理の腕を磨き、マッチングアプリに盛った自分で登録している。メイは仕事でも勝ち負けにこだわっていて、ものごとを既存のルールに沿って線引しやすいタイプである。それがやがてメイやナギサさんが、あらゆる偏見から解き放たれることになるのだろうか。世の中の「おじさん」や「お母さん」という存在に対する固定観念が変わり、ユートピア的世界へと向かうのか。徳尾の脚本に期待している。

■木俣冬
テレビドラマ、映画、演劇などエンタメ系ライター。単著に『みんなの朝ドラ』(講談社新書)、『ケイゾク、SPEC、カイドク』(ヴィレッジブックス)、『挑戦者たち トップアクターズ・ルポルタージュ』(キネマ旬報社)、ノベライズ「連続テレビ小説なつぞら 上」(脚本:大森寿美男 NHK出版)、「小説嵐電」(脚本:鈴木卓爾、浅利宏 宮帯出版社)、「コンフィデンスマンJP」(脚本:古沢良太 扶桑社文庫)など、構成した本に「蜷川幸雄 身体的物語論』(徳間書店)などがある。

■番組概要
火曜ドラマ『私の家政夫ナギサさん』
TBS系にて、毎週火曜22:00〜放送
出演:多部未華子、瀬戸康史、眞栄田郷敦、高橋メアリージュン、宮尾俊太郎、平山祐介、水澤紳吾、岡部大(ハナコ)、若月佑美、飯尾和樹(ずん)、夏子、富田靖子、草刈民代、趣里、大森南朋
原作:『家政夫のナギサさん』(四ツ原フリコ著/ソルマーレ編集部)
脚本:徳尾浩司
演出:坪井敏雄、山本剛義
プロデューサー:岩崎愛奈(TBSスパークル)
製作:TBSスパークル、TBS
(c)TBS

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