よりにもよって気球で亡命!? 『バルーン 奇蹟の脱出飛行』は実録サスペンス映画の秀作

実録サスペンス映画の秀作『バルーン』

 そして、ここまで書いてきたように、本作はサスペンスを基調としながらも、人間ドラマ部分も非常に濃い。国の都合で東西に引き裂かれた家族のドラマや、子どもの自由な未来のために勇気を振り絞る親たち、英雄ではない一般市民の良心の発露など、さりげないが、非常に印象に残る場面が多い。もちろん悪役であるシュタージ側も気合いが入っている。こうした作品には必須だといってもいい、ボスが部下を静かに、しかし冷酷に激詰めするシーンも入っていたりと、本当に手堅い作りだ。

 基本的にサスペンスは「バレる? それともバレない?」の待ち時間に宿る。本作の主人公たちは「気球」という、バレない方が難しいものを隠しているうえ、バレたときにフォローできないものをずっと作っているわけで、サスペンスが全編にみなぎるのは必然だ。明らかに無謀すぎる挑戦。次々と起こる予想外のアクシデント。極限状況でさりげなく、しかし印象的に描かれる人間同士のやり取り。実録モノではあるが、娯楽映画のツボを絶妙な形で押さえた手堅い演出と脚本が光る。『ホテル・ルワンダ』(2004年)、『アルゴ』(2012年)、『ホテル・ムンバイ』(2018年)などの流れに連なる、実録サスペンス映画の秀作だ。

■加藤よしき
昼間は会社員、夜は映画ライター。「リアルサウンド」「映画秘宝」本誌やムックに寄稿しています。最近、会社に居場所がありません。Twitter

■公開情報
『バルーン 奇蹟の脱出飛行』
7月10日(金)より、TOHOシネマズ シャンテほか全国公開
出演:フリードリヒ・ミュッケ、カロリーヌ・シュッヘ、デヴィッド・クロス、アリシア・フォン・リットベルク、トーマス・クレッチマン
監督:ミヒャエル・ブリー・ヘルビヒ
脚本:キット・ホプキンス、ティロ・レーシャイゼン、ミヒャエル・ブリー・ヘルビヒ
配給:キノフィルムズ/木下グループ
2018年/ドイツ/ドイツ語/125分/カラー/シネマスコープ/5.1ch/原題:Balloon/日本語字幕:吉川美奈子
(c)2018 HERBX FILM GMBH, STUDIOCANAL FILM GMBH AND SEVENPICTURES FILM GMBH
公式サイト:balloon-movie.jp

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