『やまとなでしこ』が令和の時代に復活! 大人になって気づく、“合コンの女王”桜子に宿る夢と希望

『やまとなでしこ』桜子は令和にどう映る?

 桜子の全くブレずに自分の気持ちに常に正直なところが、結局憎めず羨ましく映るのだ。「選ばれるのを待っている」ばかりでなく、自分から欲しいものに手を伸ばしていく。媚びへつらうのではなく、自身にふさわしいと思える相手を「自ら選び取りに行っている」ところに、我々は夢と希望を見たのではないだろうか。自分のいる世界は自分で変えられるのかもしれない、と。シンデレラだっておめかししてお城の舞踏会に参加したからこそ王子様と出会えて、見出されたのだ。

 それはきっと欧介にとっても同じだったのだろう。数学を極めるために、MITに奨学金留学していた最中、父親が病に倒れ夢半ばで帰国を決めた。そのまま実家の傾きかけの魚屋を継いでいるものの、桜子とのデート中にまで数学の証明の話を持ち出してしまうほどに、実際には数学への諦めきれぬ情熱をずっと絶やさず秘めている。恋愛についても同様だ。7年前の留学時に付き合っていた彼女に振られて以来、失恋の痛手を引きずり恋に臆病になっている。そんなうだつの上がらない彼にとって、欲しいものに脇目もくれず一直線の桜子は、とびっきりに眩しく予定調和を狂わせる存在だった。桜子が気を許した相手にだけ魅せるコロコロ変わる表情も本当に見飽きない。東十条司(東幹久)やその他大勢の男性の前で見せる表情は顔面に笑顔が張り付いていて、彼女の本当の魅力を滲ませはしない。

 そして、実は彼女も彼女で、欧介は自分がいつしか失くしてしまったものを損わずに持ち続けていられる人だとどこかで気づいている。自分を極貧生活に追いやった父親の漁師という職業と近しいところにいる存在なだけでなく、自分は毛嫌うことしかできず、ある意味屈してしまった「貧しさ」に対して、彼はその中にあっても「本当に豊かで大切なもの」を決して見失ってはいない。

 したたかな女性というのは普通同性の前でも自身を取り繕ったりするものだが、彼女は目的意識が明確で、ある意味竹を割ったような性格。そんな桜子の中でも欧介に対する想いに変化が見られ始めると、「揺らぎ」が生じ始める。一人のどこにでもいる女性としての顔を覗かせ、後輩たちもそして何より彼女自身がその変化に驚き戸惑う。迷いを振り切るように強がって見せる彼女がいじらしく感じられる。実は彼女も欧介同様、本当に大切なものに対しては臆病で人一倍不器用なのかもしれない。

 桜子が自身の中に芽生えた欧介への好意を受け入れることは、ある面自分がこれまで拠り所としてきたものを真っ向から否定することにも繋がりかねない。長年信じてきたものを手放すということは、年齢を重ねれば重ねるほど難しくなるものだが、さて次週全く相容れないかに見える2人がどんな結末を魅せてくれるのか。その歩み寄りの瞬間を、アラサーになった今だからこそ見逃さないようにしたい。

■楳田 佳香
元出版社勤務。現在都内OL時々ライター業。三度の飯より映画・ドラマが好きで劇場鑑賞映画本数は年間約100本。Twitter

■放送情報
『やまとなでしこ 20周年特別編』
フジテレビ系にて放送
第2夜「いつか王子様が」:7月13日(月)21:00~22:48
出演:松嶋菜々子、堤真一、矢田亜希子、筧利夫、須藤理彩、東幹久、森口瑤子、西村雅彦ほか
脚本:中園ミホ、相沢友子
主題歌:MISIA「Everything」(Sony Music Labels)
企画:石原隆
演出:若松節朗、平野眞
プロデュース:岩田祐二
制作:フジテレビ
制作著作:共同テレビジョン
(c)フジテレビ
公式サイト:https://www.fujitv.co.jp/nadeshiko_sp/
公式Twitter:@nadeshiko20th

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