『レディ・プレイヤー1』はオマージュの数々に注目 名作ホラーからの引用はどのように誕生した?

『レディ・プレイヤー1』のオマージュの数々

 しかし、である。原作小説に登場している『ブレードランナー』の世界観を、映画でも再現しようとする試みは最後まで実現しなかった。映画脚本の初期草案では、『レディ・プレイヤー1』の中に『ブレードランナー』の世界がそのまま再現される予定だったのだ。この構想が白紙となった理由は、やはり権利上の問題だった。同作の続編『ブレードランナー 2049』(2017年)が『レディ・プレイヤー1』と同時期に製作されていたことが原因で、新作公開に躍起になっているワーナー・ブラザースが容易に許可を下すわけもなかった。ワーナーとの交渉が空振りに終わったことで、これらの構想は幻のものとなってしまったのだ。

 そこでスピルバーグ監督は、『ブレードランナー』の代替として、盟友スタンリー・キューブリックの『シャイニング』(1980年)を提案。初稿における『ブレードランナー』の重要なシーケンスを、キューブリックの名作ホラー『シャイニング』(1980年)に変更した。スピルバーグといえば、ジョン・フォード、黒澤明、アルフレッド・ヒッチコックなど多くの映画人から影響を受けているが、その中でもスタンリー・キューブリックは極めて特別な人物といえよう。スピルバーグにとってキューブリックは親友あるいは師ともいえる存在であり、スピルバーグが最も尊敬する人物のひとりでもある。

 キューブリックは生前、スピルバーグを自身の後継者として指名しており、のちにスピルバーグはキューブリック原案の『A.I.』(2001年)を監督するに至った。元々、『A.I.』はキューブリックの企画であり、ブライアン・オールディスの小説『スーパートイズ』(竹書房刊)の映画化として始動したのだが、キューブリックの急死によって企画は一度白紙に。その後、スピルバーグが亡きキューブリックの遺志を継ぎ、『A.I.』を見事に完成させている。そういうわけだから、キューブリックの名作を引用するのも、いたって自然な流れである。余談だが、スピルバーグは過去に何度もキューブリック作品からヒントを得ており、スピルバーグの『戦火の馬』(2011年)では、キューブリックの『突撃』(1957年)によく似たシーンを盛り込むなどしている。ゆえに、キューブリックにオマージュを捧げる『シャイニング』の当該シーケンスは、極めて必然ともいえる結果だろう。

 さて、それら以外にも映画では、予告編でもフィーチャーされているヴァン・ヘイレンの「ジャンプ」や、ビー・ジーズの「ステイン・アライヴ」、そしてプリンスやテンプテーションズなど1970年代から1980年代の音楽も多分に用いられ、多彩な時代のポップカルチャーに最大限の敬意を示した唯一無二の作品となっている。画面に映るキャラクターたちだけでなく、音楽にも耳を傾けてほしい。きっと新たな発見があるはずだ。そして重要なストーリーは極めてシンプル。VR(ヴァーチャル・リアリティ)世界で3つの鍵を見つけ、その世界の覇権を掛けて謎を解いていく壮大なアクションだが、その中には現代人に向けた健気で強いメッセージが込められている。このワクワクとドキドキこそ、まさにスピルバーグ作品の醍醐味ではないだろうか。

■Hayato Otsuki
1993年5月生まれ、北海道札幌市出身。ライター、編集者。2016年にライター業をスタートし、現在はコラム、映画評などを様々なメディアに寄稿。作り手のメッセージを俯瞰的に読み取ることで、その作品本来の意図を鋭く分析、解説する。執筆媒体は「THE RIVER」「IGN Japan」「映画board」など。得意分野はアクション、ファンタジー。

■放送情報
『レディ・プレイヤー1』
日本テレビ系にて、7月3日(金)21:00〜23:24放送
※放送枠30分拡大
※地上波初放送
監督・製作:スティーヴン・スピルバーグ
出演:タイ・シェリダン、オリヴィア・クック、 ベン・メンデルソーン、T・J・ミラー、 サイモン・ペッグ、 ハナ・ジョン=カーメン、 森崎ウィン
(c)Warner Bros. Entertainment Inc.

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