“戦国ホームドラマ”を描いた『利家とまつ』 『麒麟がくる』と異なる信長と光秀の関係性も

“戦国ホームドラマ”を描いた『利家とまつ』

『麒麟がくる』とは全く異なる信長と光秀

 最後に、『麒麟がくる』にちなんで『利家とまつ』の光秀と信長についてである。前述したように反町演じる信長は、わりと優しい。気づいたら部下や部下の妻たちと世間話に花を咲かせていたりする。光秀の謀反を知るまでの過程で「で、あるか」を何段活用にもして状況を把握していく姿は、死を前にしてキュートとしか言いようがない。

 一方の光秀を演じるのは、下から這いあがるかのような屈折した負のオーラを、その独特な声色で存分に漂わせる萩原健一。アットホーム家臣団といった感じの利家たちと一線を画し、冗談など一切通じそうにない、完全に異質な空気を纏った男だ。占いが得意だと言って何かと不吉なことを言い、髑髏の杯を配する姿は、まるで死神のよう。積年の恨みを語り尽くし、「天下国家のために」信長の首を狙う。彼もある意味、組織の中で疎外された男であった。

 こうやって見ると、『麒麟がくる』と『利家とまつ』の光秀・信長の関係性は全く違う。『麒麟がくる』の信長(染谷将太)は、部下との関係性の描写は比較的少なく、親に愛してもらえなかったというコンプレックスの中を漂い続ける永遠の子供といったイメージが強い。妻である帰蝶(川口春奈)を母のようだと慕い、光秀(長谷川博己)に褒められたことを無邪気に喜ぶ。

 『利家とまつ』は徹底して組織を描いた。一方の『麒麟がくる』は、まだ現時点で光秀の仕官前であるというタイムラグを加味しなければならないが、誰をよすがとすればいいのかさえわからず、それぞれに孤独で不器用な個人が、途方もなく大きく、漠然とした「麒麟」という夢に向かってどう足を進めるべきか模索する様が描かれているように思う。それは、18年の年月を経た、時代の変化であるとも言える。

 光秀と信長、このなんとも奇妙な、これまでにない関係性が、どう今後発展していくのか。休止後の『麒麟がくる』に期待したい。

■藤原奈緒
1992年生まれ。大分県在住。学生時代の寺山修司研究がきっかけで、休日はテレビドラマに映画、本に溺れ、ライター業に勤しむ。日中は書店員。「映画芸術」などに寄稿。

■放送情報
特集番組『「麒麟がくる」までお待ちください 戦国大河ドラマ名場面スペシャル』
6月28日(日)『利家とまつ』
7月12日(日)『秀吉』
NHK総合にて、20:00〜20:45放送 ※土曜の再放送あり
NHK BSプレミアムにて、18:00〜18:45放送

7月26日(日)
「キャスト・スタッフが明かす大河ドラマの舞台裏」
NHK総合にて、19:30〜20:43放送
写真提供=NHK

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