スタジオコロリド・山本幸治氏が語る、コロナ以降のアニメ制作 『泣き猫』はなぜ劇場公開から配信へ?

「想定していたほど酷い事態にはならなかった」

ーー新型コロナウイルス感染症の影響でTVアニメでは多くの作品が放送中断や延期となりました。スタジオコロリドの制作体制にも影響は出ているのでしょうか?

山本:ようやく緊急事態宣言も明けましたが、振り返ってみると想定していたほど酷い事態にはならなかったんです。確かにアフレコはストップしましたが、スタジオがクラスター化するといったことは起こらず第一波が過ぎました。なので、業界全体で深刻なダメージが出ているかというと、そうでもないと思います。しかし、今後アニメを作り続ける上では、常に感染のリスクがつきまといます。コロリドの話でいうと、もともと業界でもデジタル化が進んでいる会社ということもあり、リモートワークへの対応度が高かったのですが、ソフトのライセンスの問題で自宅作業ができなかったりと残念なことも起こったため、それを踏まえて、リモート対応やデジタルの推進に大きく舵を切りました。結果として、そこまでやる必要があったのかという思いもあるのですが、今後もリモートなりデジタルへの対応を進めていくつもりです。一方で、業界を見渡すと、あまり体制を変えずに突き進んでいる方も多くいらっしゃいますね。

ーー今後のアニメーション制作現場はどのように変容していくのでしょうか?

山本:日本のアニメーション業界の構造として、中国をはじめとした海外の会社に工程を外注するといったことがこれまで続いていました。基本的には、仕事を外注していく上で、後工程に関しては、とにかく早くて安ければどこでもいいとなり、人件費の問題で海外に外注していたんです。しかし今回の経験を経て、やはり国内でやった方がいいんじゃないかといった構造的な変化は起こるでしょうし、質をしっかり担保して内製していくという大きな流れになっていくんだろうと感じています。外注に頼っていると危ないというのは、コロナ以前から言われていたのですが、今回で一気に顕在化しました。

ーー今まで見過ごされていた問題を改めて見つめ直すフェーズに入ったと。

山本:コロナの問題が起きる前は、労働環境をどう変えていくかというのが、アニメーション業界にとって大きな問題でした。「アニメ業界はブラック」「低賃金だ」ということが叫ばれていました。理由としては、フリーランスが多い業界であるということ。アニメ業界全体が一つの大きな会社というか、フリーランスによって支えられている業界だったんです。そういった労働環境の問題を、各社でどう対処していくのか、それぞれスタンスが違っていたのですが、大手や老舗は、制作本数をグッと絞る形で対応していたんです。そういった、どのみち変わらざるを得なかった問題がアニメ業界にはあったのですが、今回のコロナによって、待ったなしの変革が求められるようになったのは感じます。でも、それはいいことだと思いますね。ここ10年くらい、TVアニメの制作は減らず、昔のテレビじゃありえないような、劇場映画レベルのクオリティの深夜アニメも多く作られていて、変なチキンレースになっていた部分もあるので、しっかりと質を上げて、本数を絞って作っていく体制になる良い機会なのかなと思います。

【特集ページ】「コロナ以降」のカルチャー 現在地から見据える映画の未来

■配信情報
『泣きたい私は猫をかぶる』
Netflixにて、6月18日(木)より全世界独占配信
出演:志田未来、花江夏樹、小木博明、山寺宏一
監督:佐藤順一・柴山智隆
脚本:岡田麿里
主題歌:『花に亡霊』ヨルシカ(ユニバーサルJ)
企画:ツインエンジン
制作:スタジオコロリド
製作:「泣きたい私は猫をかぶる」製作委員会
(c) 2020 「泣きたい私は猫をかぶる」製作委員会
公式サイト:nakineko-movie.com
公式Twitter:@nakineko_movie
公式Instagram:@nakineko_movie

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