『薄明の翼』は今後アニメ作品を考える上で重要な試みに 現実世界と陸続きのポケモンとの“共生”

 本作を語る上では、YouTubeで公開されているという点にも着目したい。日本の多くのアニメ作品は1話30分のTVシリーズを毎週放送、もしくは映画館で2時間ほど上映、あるいはOVAなどのいくつもの形式がある。しかし、1カ月ごとに5分ほどの作品を公開するという試みは、いまだかつてなかったのではないだろうか。近年は若年層を中心に影響力の強まっているYouTubeだが、人気動画を検索すると5分から10分程度のものも多い。まとまった時間で動画を観るというよりは、ちょっとした空き時間や、短い時間の動画をいくつも見るということの方が多いのではないだろうか。その点において、1話5分ほどというのは、YouTubeを楽しむ若年層にも気軽に楽しめるものになっている。

【公式】『ポケットモンスター ソード・シールド』オリジナルアニメ「薄明の翼」 第1話「手紙」

 この試みは今後のアニメ作品を考える上で、とても重要なのではないだろうか。TVシリーズの30分を1話として1クール以上、約13話を放送するというのはTVのフォーマットに合わせるためのものだ。近年は5分アニメなども登場しているが、YouTubeやSNSを活用すればその時間の制約から解放される。またスタジオコロリドはCMやMVなども手がけており、短編アニメを制作するスタジオでもある。短編アニメは商業のフォーマットでは採算が取りづらい一面があると言われているが、過去には新海誠監督が120秒のCM作品『クロスロード』を作り、その経験を参考にしながら『君の名は。』を制作したように、短編アニメには作家性や技術の育成、長編のパイロットとしての役割を果たす。近年はインターネット上で短編アニメを発表する若手アニメーターや学生も増えており、その才能をキャッチしていかんなく発揮するための場としても、YouTubeやSNSは重要な役割を果たすのではないだろうか。

 『劇場版ポケットモンスター ココ』の監督を務める矢嶋哲夫監督も30代半ばと若い監督であり、子どもの頃からポケモンを楽しんできた世代だ。若い才能たちが作り上げていく新たなるポケモンワールドとその情熱は、コロナショックで先行きの見えない中でも世界中の子どもたちに届き、各々の新たなるポケモンがいる世界を生み出していくのだろう。

■井中カエル
ブロガー・ライター。映画・アニメを中心に論じるブログ「物語る亀」を運営中。
@monogatarukame

■配信情報
アニメ 『薄明の翼』
ポケモン公式YouTubeチャンネルにて毎月1話配信
エピソード:全7話(各話5分程度)
監督:山下清悟
脚本:木下爽
脚本監修:岸本卓
キャラクターデザイン:小笠原真
色彩設計:広瀬いづみ
美術監督:竹田悠介、益城貴昌
3DCG:高橋将人
撮影監督:小川克人
音響監督:三間雅文
アニメーション制作:スタジオコロリド
(c)2019 Pokemon. (c)1995-2019 Nintendo/Creatures Inc./GAME FREAK inc.
公式サイト: https://www.pokemon.co.jp/ex/hakumei_no_tsubasa/

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