林遣都、1人3役を成立させたむき出しの演技力 『世界は3で出来ている』が描いた“今、この時”

林遣都、1人3役を成立させた演技力

 期待を一身に背負った林は、ベスト・アクトの1本に挙げてもそん色ない、終始安定した演じ分けを披露。3人が同時に画面に映ることも多く、撮影時の手間を考えるだけで気が遠くなりそうだが、演技からは辛苦を微塵も感じさせない辺り、林の役者としての度量がうかがえる。劇中のセリフにもある通り「顔は同じ」だが、別個の人物にしか見えないのだ。髪型や服装などにもわずかな差しか施しておらず、ほぼ生身で3役を成立させたむき出しの演技力は、驚嘆に値する。

 それでいて、林がこれまで演じてきたキャラクターたちとも被っていない点は、甚だ恐ろしい。今回の作品の肝はやはり「同時代性」にあり、リアリティが担保されていなければならない。つまり、わかりやすい癖、大げさな演技などキャラクター性を強く立たせることが、視聴者が生きる日常と比較した際に現実味が薄れ、ノイズにもなりかねない状況だ。いかに「普通に」演じられるかが重要視される中で、三者三様の連綿たる名演をさらりとこなしている。三雄に対して勇人と泰斗が言う「かわいい」は、同じセリフながら異なる色の慈愛を感じさせ、実に味わい深い。

 そこに、中江のキレの良い演出(スムーズに見せているが、序盤からカット割りがかなり多い。テンポ感に腐心している表れといえよう。また、冒頭に勇人のマシンガントークを盛り込み、林の演技力で作品世界に一気に引き込む、いわば“先制パンチ”を仕掛ける演出も上手い)と、水橋の人情味あふれるセリフが組み合わさり、エンタメ性とリアリティの調和――さらには悲喜劇の絶妙なニュアンスを奏でている。

 たとえば「ソーシャルディスタンス!」を呪文のように繰り返す生真面目で神経質な泰斗が、実は昔から穴があると指を入れたくなるたちで、たまたま見つけた勇人の指輪をはめたら抜けなくなるシーンなど、人物のギャップを見せて笑いを生み出すアプローチをとると同時に、「会社を辞めたがってるお前が心配で、だけどこの3ヶ月会いに行けなかった」というストレートな家族愛も描き出す。カッコ悪く、愛おしい人間そのものを、脚本がしっかりと提示しているのだ。

 この「カッコ悪い」、或いは「カッコつけない」人間の生々しさが、非常に上手く出ているのが、コロナ禍のなかで感じた個人個人の想いを、3つ子が吐露するシーン。テレワークに移行したおかげで働きやすくなり、社内で出世した勇人は、「ここだけの話、本当良かった。新しい生活ブラボー!」と叫ぶ。

 ここで「ここだけの話」と連呼するのがポイントだ。なぜそんな前置きを置くのか、それは新型コロナウイルスで人命が失われ、仕事を失った人々がいるという「事実」があるから。自分単位での浮き沈みに対する素直な気持ちを発言することは不謹慎である――という道徳心の上に成り立っている思考やセリフであり、臆することなくそれを言わせる部分に、作り手たちの強い意志を感じずにはいられない。つまり、『世界は3で出来ている』は、今、日本のどこかで交わされている家庭の会話を、加工せずに持ってきている。

 その言葉を受け、泰斗がぽつぽつと語る「コロナ禍の戸惑いや不安」も、観る者の共感に強く訴えかけ、心をかき乱す。「誰もいない渋谷をニュースで観て、本当なんだと思ってしまった」「三食自炊するようになった」「これまでは行き届いていなかった掃除や断捨離を行うようになった」「医療従事者に感謝するようになり、寄付もした」……。「だんだん考えることが決まってきた。いつ戻るんだろうって」「でも、人って忘れていくよな。もう渋谷に人いるもんな」という泰斗のセリフににじむ漠然とした哀しみは、多くの人々が言葉にせずとも感じている気持ちと合致するだろう。彼らもまた、私たちと同じように今を生きている。そう感じられることが、ひいては我々の「救い」にならないだろうか。

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