坂元裕二がコロナ禍に見せた“作家の矜持” 『リモートドラマ Living』には『最高の離婚』要素も

坂元裕二がコロナ禍に見せた“作家の矜持”

 そして、最終話となる第4話「敬遠」は、微熱を出して赤ん坊に(風邪)をうつさないように別室で自宅隔離されている東山(青木崇高)の物語。

 テレビ局のベテラン社員(おそらくプロデューサー)らしき東山は、若手社員が放送しようとしたスクープにストップをかける。「メディアのえりもちが」と矜持(きょうじ)もまともに読めない若い社員をバカにし、テレビで放送されているバラエティやドラマ(さっきまで放送されていた第3話)に文句を言いながら、SNSに書かれたテレビ批判にも「テレビはクソですよ~」と悪態をつく。

 そこで突然テレビが付くのだが、放送されているのは過去の高校野球の映像。ピッチャーは玉白高校の東山、つまり過去の東山。そしてバッターは朝倉学園の4番で超高校級スラッガーと言われた坂口だ。

 当時、東山は監督の命令で、5打席連続敬遠をした。試合は朝倉学園の勝利で見事甲子園に出場。逆に坂口は選手生命をここで終えた。

 批判されたがこっちは勝ち組、相手は負け組と言い訳をする東山。スクープをもみ消そうとする今の姿と重なる。だが、第五打席、敬遠をするかと思われた過去の自分はストレートを投げる。監督の指示を無視して勝負する自分を東山は応援する。結果的にホームランを打たれて試合には負けるのだが(ありえたかもしれない)過去の自分の姿を見て奮起した東山は、後輩に「責任は俺が取る」と言ってスクープを放送させようとする。

 テレビマンを主人公にしているため、作り手による自己言及的な作品とも言えるが、テレビの側から東山を映しているため、鏡越しに自分の姿を見ているような気まずさがある。その意味で東山は、テレビを観ている私たち視聴者の分身なのだと思った。

 作家(阿部サダヲ)とどんぐり(声・壇蜜)の対話によって紡がれる4つの短編を見終えて、筆者は村上春樹の連作短編集『神の子どもたちはみな踊る』(新潮文庫)を思い出した。1995年に起きた阪神淡路大震災をモチーフにした本作は、東京で起きる地震を防ぐためにかえるくんがミミズくんと戦う「かえるくん、東京を救う」のようなファンタジーテイストの作品と被災した男女の恋愛を描いたリアルな作品が入り混じっており、最後の「蜂蜜パイ」では、作者を思わせる小説家が「これまでとは違う小説を書こう」と決意して終わる。

 コロナ禍に『Living』を書いたことが、坂元裕二の作風にどのような影響を与えるかは、今後を見ないことにはわからないが、あれだけ作家の悩む姿を見た後だと、どれだけ人間に絶望してもいいので書き続けてほしいと願う。多分それくらいしか、作家にはできないのだから。

■成馬零一
76年生まれ。ライター、ドラマ評論家。ドラマ評を中心に雑誌、ウェブ等で幅広く執筆。単著に『TVドラマは、ジャニーズものだけ見ろ!』(宝島社新書)、『キャラクタードラマの誕生:テレビドラマを更新する6人の脚本家』(河出書房新社)がある。

■放送情報
『リモートドラマ Living』
NHK総合にて放送

●第1夜
第1話 出演:広瀬アリス、広瀬すず
第2話 出演:永山瑛太、永山絢斗

●第2夜
第3話 出演:中尾明慶、仲里依紗
第4話 出演:青木崇高、優香(声)

●第1夜、第2夜(全話出演)
出演:阿部サダヲ、壇蜜(声)

写真提供=NHK
NHKドラマ公式Twitter:https://twitter.com/nhk_dramas 

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