坂元裕二が『Living』に込めた、人間に対する渾身の“愛” 広瀬姉妹×永山兄弟の第1夜を振り返る

坂元裕二が『Living』に込めた愛

『国境』永山瑛太×永山絢斗

 「人は人を好きになることができるということを証明する」という作家の言葉の根拠として、永山瑛太・絢斗兄弟が演じたのは、近未来の日本で「過去に流行った料理」を作ることを生業とする兄弟だ。

 この物語の中で描かれる未来の日本は実に不気味である。彼らは「どうせ失敗するんだから諦めなさい」という道徳の教科書の教えを肝に銘じながら、「えらい人がやるって決めたこと」について深く考えることを放棄して、ヘラリと笑って生きている。しかもこの国は戦争中で、彼らは新しくできた国境によって分断され、兄弟であるのに関わらず住む国が違う。「あんた」と呼び合い、エプロンの紐を互いに結び合う仲睦まじい兄弟であっても、戦地で互いを「撃つ」かもしれない理由をそれぞれ胸の内に隠している。

 それでも、そんな陰鬱な世界がキラキラと輝く瞬間がある。憧れの「管理人さん」と一緒に3人並んでスイカを食べる夏の日を、彼らが夢見るシークエンスだ。だがその夢は終盤、あっけなく破れる。兄弟2人の顔に、台詞がなくとも「ほらね、どうせ何をやっても失敗するんだから」という諦念が浮かぶ。

 だが、物語にはその先がある。スイカを食べる夢を失った彼らは、失敗ではなく成功に終わった、コロッケと思しきアツアツの「過去の食べ物」を口いっぱいに頬張ったのである。

 このコロッケにこそ、食べること、すなわちドラマタイトルである「Living(=リビングでの出来事/生きること)」の本質が込められているのではないか。

 作家は人間を否定するドングリに対して、人間を肯定しようと必死で物語を書くのだが、描き出したのは、人間賛歌とは程遠い猛毒だった。彼は描き出さずにはいられなかった。ファンタジーの中には、我々の生きる世界の現実が潜んでおり、ファンタジーの近未来は、悲しいことに、起こり得る未来の姿だ。

 人間は決して美しい存在ではない。長所は裏を返せば短所であり、人は人を好きになることもできるが、人は人を憎むこともできる。美しい感情と歪んだ感情は紙一重だ。

 それでも感じることができる、夢でもなければ過去系でもない、サクサクアツアツのコロッケの幸せは、「作家は本来危険な毒を吐くものであるはずなのに、現実の人間が醜すぎて私の吐く毒が毒じゃなくなってしまった」と嘆く一方で、「人間って素晴らしい。人間は生きる価値がある」と懸命に肯定しようとする作家・坂元裕二の描く、矛盾だらけでどうしようもない人間に対する渾身の「愛」なのではないか。

 さて、第3話・第4話は中尾明慶×仲里依紗、青木崇高×優香というリアル夫婦が演じる夫婦の物語。ドングリの正論を前に太刀打ちできない人間の未来はいかに。

■藤原奈緒
1992年生まれ。大分県在住。学生時代の寺山修司研究がきっかけで、休日はテレビドラマに映画、本に溺れ、ライター業に勤しむ。日中は書店員。「映画芸術」などに寄稿。

■放送情報
『リモートドラマ Living』
NHK総合にて放送

●第2夜:6月6日(土)23:30〜00:00
第3話 出演:中尾明慶、仲里依紗
第3話 出演:青木崇高、優香(声)

●第1夜、第2夜(全話出演)
出演:阿部サダヲ、壇蜜(声)

写真提供=NHK
NHKドラマ公式Twitter:https://twitter.com/nhk_dramas

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