『愛の不時着』はなぜ人々の心を掴んだのか 個を大切にするこれからの時代の理想の恋愛関係

『愛の不時着』愛しさが増す演出を紐解く

愛しさが増す巧みな演出の数々

 
 『愛の不時着』を楽しむ最大のポイントは、細かな機微を見逃さないことだ。頭を肩にもたれる。手をつなぐ。横に並んで話し合う。同じようなセリフや状況が繰り返し登場し、登場人物たちの心の動きの変化に迫る演出も多々ある。

 特に注目してほしいのが、リ・ジョンヒョクの言動だ。そのやさしさは繊細でうっかりすると見逃してしまうほど。ユン・セリのワガママを叶えようと何度も市場に足を運んでいたり、道に迷ったふりをして1秒でも長く一緒にいようとしたり、ユン・セリからもらったトマトを大事に思うあまりゲームのキャラに「トマト栽培者」と名付けたり……。

 本人も気づいていない特別な感情に「もうそれは愛!」とツッコミたくなる気持ちを、登場人物が代弁してくれるのも、このドラマの痛快なところ。リ・ジョンヒョクの部下である軍人たち、特に韓国ドラマ好きなキム・ジュモク(ユ・スビン)が、“韓国ドラマあるある”で物語の展開を予見して盛り上げていく。まるで視聴者代表のようなポジションで、2人を見守る構図も新鮮だ。また、韓国ドラマ好きにはたまらないスペシャルゲストの登場もたまらない。

 他にも、ユン・セリとリ・ジョンヒョクの恋路を邪魔することで結託したソ・ダン(ソ・ジヘ)、ク・スンジュン(キム・ジョンヒョン)をはじめ、多くの魅力的なキャラクターが登場する。見知らぬ北朝鮮に暮らす軍人たちに、ユン・セリと同じ視点で友情を感じるようになるのは、その一人ひとりがそれぞれの正義を持ち、痛みと向き合いながら生きているのが伝わってくる演出があるからだ。

 さらに、ユン・セリがパラグライダーで不時着する以前にも、2人が出会っていたというエピソード。「本棚が人を表す」「記憶の片隅に流れるメロディ」「間違って乗った汽車」……愛によって記憶の断片がつながったとき、私たちはそれを運命と信じて、愛しさが増す。きっと私たちも、『愛の不時着』を見返すたび、よりそれぞれの記憶がつながって見えるのではないだろうか。そして、その度にこの作品がより愛しくなるはずだ。

※記事初出時、一部の表記に誤りがありました。訂正してお詫びいたします。

■配信情報
『愛の不時着』
Netflixにて配信中
出演:ヒョンビン、ソン・イェジン、ソ・ジヘ
原作・制作:イ・ジョンヒョ、パク・ジウン

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