興行会社ティ・ジョイに聞く、コロナ以降のシネコン運営 映画館の意義を模索する時代がやってくる

ティ・ジョイに聞く、コロナ後のシネコン運営

『映画ドラえもん のび太の新恐竜』が映画館の安全性を確認する目安に

ーー観客が安心を確信するまではさらなる道のりが必要になりそうですね。その辺りの目安などは考えていらっしゃいますか?

田代:年間何本も映画館で映画を鑑賞されるようなヘビーユーザーの方もいらっしゃるわけですが、そういった方々が劇場に戻られたからといって「映画館は安全だ」というのは違う話だと思っています。『映画ドラえもん』をはじめとしたファミリー層がご覧になる作品をきちんと届けられる環境が、ある意味ひとつの目安になるのではないでしょうか。現状『映画ドラえもん のび太の新恐竜』が8月7日に公開予定です。ご家族連れの方々が安心して映画館にお越しいただける状況になれば、映画館の安全性を皆さんにご納得いただけるようになると考えています。

『映画ドラえもん のび太の新恐竜』(c) 藤子プロ・小学館・テレビ朝日・シンエイ・ADK 2020

ーー8月7日が映画館の安全性を確認できる一つの目安になりそうですね。SNSでは早い段階で営業再開を判断したTOHOシネマズ 仙台の上映ラインナップがリバイバル上映だらけの豪華な内容で話題になっていました。再開しても新作のラインナップがないといった状況も続きますね。

田村:旧作をシネコンで上映することで、かえって観に行きたいと思うような方は一定数いらっしゃると思います。名画となってくると、ユーザー的に都心部に限られたり、ローカルに行くと新作が強い、TVドラマの映画化が強いといった映画館ごとの特色がそれぞれあるので、そこを踏まえた上でといったところでしょう。

『劇場版 Fate/stay night [Heaven's Feel] III. spring song』(c)TYPE-MOON・ufotable・FSNPC

田代:弊社の今後の上映ラインナップでいうと、『劇場版 Fate/stay night [Heaven's Feel] III. spring song』や『シン・エヴァンゲリオン劇場版』は特に注視すべきだと考えています。どちらも公開延期が決まっていますが、『Fate』に関しては、本来の公開日前日に延期が発表されたこともあり、休館直前の新宿バルト9は予約の段階で満席になっていました。ああいったファン層の厚いアニメ作品は、仮に400席の劇場を200席で売ったとしても、完売してしまう気がしています。それはそれで映画館がクラスタ化してしまう恐れもありますので、さらに販売数を絞って100席くらいで上映するのかといった個別の判断が必要になってくるかもしれません。さらに、そういった作品で客足が戻ったからといって、安心と言えるのかというのはまた違う話で、やはりファミリー作品を安心して観られる環境作りをできたところで、ようやくひとつ峠を越えると考えています。それまでの6月、7月は、映画館が手探りに課題を解決していくフェーズになると思います。

田村:私は、『Fate』の公開の前日にT・ジョイ博多に出張しておりました。そのときの現場の話を聞くと、どうすれば安心安全をお届けできるのか、現場なりに考えていて、もし公開するのであれば、幕間の清掃で全席アルコール消毒を施した上でお客様をお出迎えをする気構えをしていたようです。結果、その後に公開延期が決まってしまったのですが、劇場スタッフなりの心意気や行動力や思考性は備えていると感じました。安心安全をお届けする上での準備はできる体制にあるなと。

ーースタッフを含め劇場全体で一丸となって、課題に取り組んでいくといったところですね。再開に向けてほかの興行会社との連携や足並みを揃えていく動きはあるのでしょうか?

田代:はい。弊社は新宿バルト9や横浜ブルク13など、TOHOシネマズさんや、松竹マルチプレックスシアターズさん、東急レクリエーションさんといった他社さんと共同で運営している劇場がたくさんあります。そういった劇場運営は、皆さんと意見交換しながら普段から行っています。ほかの業界と比べると、映画業界は協調関係が強く、コロナ禍の有無に関わらず、そういった関係性は続けていきます。足並みをそろえて営業再開日を合わせたりはしていませんが、お互いに対策方法を情報共有しながら運営を行っていきます。

ーー仮に新型コロナウイルスが収束したとしても、映画館のあり方は変容していくと思います。その辺りの変化についてどうお考えですか?

田村:先日、米Amazonがアメリカの大手シネコンチェーンのAMCを買収するのではというニュースが出ていまして、衝撃を受けました。これが実現すると、Amazon Studioの作品が、全世界で莫大なスクリーン数を持つAMCで上映されることになり、そういったスタジオがメジャーの一角に食い込んでいくのではと考えてしまいます。AmazonやNetflixといった配信をメインにする会社さんが、業界のメインストリームとなっていく。昔は、劇場公開からレンタル開始までが6カ月、TV放送は3年のスパンを空けるのが暗黙のルールだったのが、最近はどんどんその期間が短くなっています。ということを考えると、配信作品の1カ月前に劇場でプレミア上映を行ったり、劇場公開作品がすぐに配信されるようになったりと、映画館がある種の見本市のような存在になるのではと危惧しています。となると、映画館のラインナップに、オリジナルの映画作品やODS(ライブビューイングなどの非映画デジタルコンテンツ)がある中に、配信の先行作品が並ぶ日が来るのかもしれません。映画館で、たくさんのお客様が集まってひとつの画面を良い音響で観るという共有体験は、何かしらの形で残るのでしょうが、そこで上映される作品に変化が起こる可能性は考えられます。

ーーAMCの話でいうと、『トロールズ★ミュージックパワー』をPVOD(新作映画を特別価格で配信すること)でリリースし、大成功を収めた米ユニバーサルに対し、今後ユニバーサル作品を上映しないという絶縁状を突きつけたニュースもありました。御社としては、そういったファーストウインドウとしての配信の動きはどのように捉えていますか?

田代:最新の映画のファーストウンドウが配信となることには脅威に感じます。これまではDVD、Blu-rayに変わる位置付けとして配信を捉えておりましたが、仮に配信がメインストリームになっていくとすると、私たちはビジネスとして成り立たなくなってしまいます。しかし、恐らくそうはならないと考えています。なぜなら、映画館には、スマホやタブレットドの画面ではお届けできない価値がありますから。お客様側の価値もそうですし、事業者側の価値もありますし、これは今後も残っていきます。配信の方たちは良きパートナーでいてほしいと思っていますね。

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