アカデミー賞のルールも変わった 「コロナ以降」の新作配信問題

「コロナ以降」の新作配信問題

 新型コロナウイルスでの死亡者を、日本の100倍以上、あるいは200倍以上も計上していて、現在も連日数百人、あるいは数千人単位で死亡者が増えているフランスやスペイン、そしてアメリカの一部の州では、5月以降の映画館再開への具体的な基準やプランが発表されはじめた。一方、日本では政府からも地方自治体からも、映画館再開への道筋はおろか、どの国でも段階的になっていくであろう制限(日本の場合は「自粛」だが)解除のプランそのものがまだ具体的に示されていない。国内の映画興行最大の団体は全興連(全国興行生活衛生同業組合連合会)。その全興連は厚生労働省の管轄にある。最初に「自粛」というかたちで長いトンネルに入った映画興行に今必要なのは、(それが止むを得ない理由によって変更されることはあるとしても)当面の「見通し」だ。

 先日、大きな話題となったのは、全米最大規模のシネコンチェーンAMCシアターの会長アダム・アロンがハリウッドメジャーのユニバーサルに「今後、米国、ヨーロッパ、中東のすべてのAMCチェーンでユニバーサル・ピクチャーズ作品を上映しない」と絶縁状を叩きつけたニュースだ(参考:AMC Theatres Refuses to Play Universal Films in Wake of 'Trolls: World Tour'|The Hollywood Reporter)。きっかけとなったのは、北米で4月10日公開予定だった『トロールズ ミュージック★パワー』(日本では2020年10月劇場公開予定)のPVOD(新作映画を特別価格で配信すること)リリースでの成功を受けて、ユニバーサル・ピクチャーズの親会社NBCユニバーサルのCEOジェフ・シェルがウォールストリート・ジャーナルで「『トロールズ ミュージック★パワー』の成功は我々の期待を超えており、PVODの可能性を示している。全米の映画館が営業再開したら、今後は両方の形式で映画をリリースしていく予定だ」と語ったことだ。

 実際の数字を見てみよう。全米を襲った新型コロナウイルスのパンデミックを受けて、劇場公開予定日の4月10日にPVODリリースされた『トロールズ ミュージック★パワー』は、北米で最初の3週間で推定1億ドルの収入を稼いだ。これは、2016年に公開されたシリーズ前作『トロールズ』の同期間の興収(1億5370万ドル)の約65%の数字。緊急事態下において急遽講じた善後策としては、十分な結果ということだろう。

 しかし、今回のジェフ・シェルの発言は、それが配給サイドの本音だったとしても、さすがに先走りすぎだったと言わざるを得ない。いくら自由競争のアメリカといえど、莫大な利権がともなう映画配給のビジネスモデル再構築には周到な根回しが必要だろう。興行サイドからすれば、PVODで多くの新作映画が配信に流れている現在の事態は、あくまでも「パンデミックによる特例」でなくてはならない。一方、今後の映画興行復活の鍵を握る『007/ノー・タイム・トゥ・ダイ』(北米公開11月25日、日本公開11月20日)や『ワイルド・スピード/ジェットブレイク』(北米公開2021年4月10日、日本公開2021年予定)が控えているユニバーサル・ピクチャーズの作品を「すべて締め出す」とするアダム・アロンの反応も感情的すぎた。長期的な流れがPVODにあるのは確実ではあるものの、必要なのは一社ごとの個別な対応ではなく、映画界全体の(場合によっては利益配分などを伴う)コンセンサスを得るための話し合いだろう。

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