ルッソ兄弟らクリエイターの原点 『コミ・カレ!!』はアメリカのコメディドラマ入門に最適

アメリカのエンタメを支えるアーティストたちの原点

 そんなライトなトーンながら、痛快で時に痛烈な『コミ・カレ!!』の多くのエピソードを監督しているのが、ルッソ兄弟(アンソニー・ルッソ&ジョー・ルッソ)である。今ではMCUを支えた重要な監督として尊敬を集めているルッソ兄弟の原点はテレビシリーズの監督だ。『コミ・カレ!!』以前は、FOXでエミー賞ノミネートドラマ『ブル~ス一家は大暴走!』(原題:Arrested Development)というシットコムの監督を多く手がけている(ちなみに『ブル~ス一家は大暴走!』シーズン4以降はNetflixオリジナルとして製作され、アメリカのNetflixでは配信されているが、日本ではNetflixで新作シーズン配信がされることなく、配信そのものが終了されてしまい残念でならない)。『ブル~ス一家は大暴走!』でルッソ兄弟は、常時10人前後のメインキャラクターが登場するにも関わらず、20分程度でしっかりオチを付けてまとめる演出力を磨き上げている。そしてその力をいかんなく発揮しさらに高めたのが『コミ・カレ!!』である。どのキャラクターの存在も薄くならないように、短い時間で的確にそのキャラクターの持ち味を出しきる演出力があるからこそ、錚々たるマーベルヒーローが登場した『アベンジャーズ/エンドゲーム』も見事な作品に仕上がったのではないかと思う。手がけたMCU作品でたびたび『ブル~ス一家は大暴走!』や『コミ・カレ!!』のネタを織り込んでいることからも、テレビドラマ監督としての経験は思い出深いのだろう。

 そのほかにも『コミ・カレ!!』には、今アメリカのエンタメを支えるスターたちが多く登場している。一番の出生頭と言えば、グラミー賞(楽曲「This is America」)とエミー賞(FXドラマ『アトランタ』)を受賞し俳優としてクリエーターとして活躍するドナルド・グローヴァー。彼は本ドラマ内でもたびたびラップを披露しているので注目だ。さらに、エミー賞受賞ドラマNetflix『GLOW:ゴージャス・レディ・オブ・レスリング』主演のアリソン・ブリー、同じくエミー賞受賞のトークショー司会者でコメディアンのジョン・オリヴァー、監督では『ワイルド・スピード』シリーズのジャスティン・リンも参加している。音楽面では、ルドウィグ・ゴランソンの最初のブレイク作品でもある。ゴランソンといえば、『ブラックパンサー』と「This is America」でグラミー賞を受賞し、クリストファー・ノーラン監督の次回作『TENET テネット』でも音楽を手がける今注目の作曲家だ。そしてなんといっても『コミ・カレ!!』のクリエーターであり、今あげたようなスター輩出のきっかけを作ったダン・ハーモン自身も、現在英語圏を中心に大人気のアニメ『リック・アンド・モーティ』のクリエーターとして大活躍中だ。『リック・アンド・モーティ』は人気が故に2018年に追加で少なくとも70エピソード分の製作契約を結んでいる。1シーズン10話として追加で7シーズン分(約7年の契約)と考えると、人気が盤石であることが伺える。『コミ・カレ!!』を観終わった後も、本作に関わったアーティストたちの作品を楽しむことができるのも魅力の一つである。

人気コメディを知る=カルチャーを一歩深く知る

 今回『コミ・カレ!!』はNetflixが配信権利を獲得しているが、配信権利獲得関連で大きく報道される作品の多くがコメディ作品であることだ。アメリカではHBO Maxが配信権利を獲得している『フレンズ』、Netflixが世界配信中の『グッド・プレイス』『ブルックリン・ナイン‐ナイン』『ふたりは友達? ウィル&グレイス』、その他にも『The Office(US版)』『Parks and Recreation(原題)』『となりのサインフェルド』など、すべてコメディかつNBC作品だ。地上波放送でコメディ人気の土台を作ったNBCがストリーミング大手と手を組むことで、日本でも今、ようやくアメリカ国内と同じように人気コメディが一部観れるようになった。お笑いを理解するには日本語力だけではなく当然、背景などを理解しないといけないように、シットコムを知ることでアメリカのことをより深く知ることができる。シットコムの良いところは、前提知識がなくても楽しめ、コメディだからこそ表現が平易なのもあり、気軽に理解が深まっていくところにもある。外出自粛を機会に在宅が増えた今、せっかくならより一歩深くアメリカの映画やドラマを味わうために、まずシットコムの視聴から始めてみてはいかがだろうか。しかも『コミ・カレ!!』なら前述のとおり、観終わった後も、関連してアメリカエンタメの最前線で活躍するスターたちの作品を追うこともできるので、どんどん理解が深まること間違いなしだ。

■キャサリン
Netflix、Amazonプライムビデオ等のストリーミングサービスで最新作を追いかける海外テレビシリーズウォッチャー。webメディアなどで執筆。
note:https://note.mu/hitoto04
Twitter:https://twitter.com/Hitomi_forward

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