『ひよっこ』はなぜ愛されたのか “欲望”を過剰にしなかった昭和のもう一つの物語

『ひよっこ』はなぜ愛されたのか

 ひとりひとりが欲望を高くもって頑張った結果、日本は豊かになったけれど、あっという間にその時代は終わってしまった。ひとりひとりが欲望を強く持つと他者を蹴落としていくようになってしまう。でも『ひよっこ』の人たちはそうしない。少しずつ譲歩して、協力しながら生活していく。例えば、あかね荘で、みんなが食材(ラーメン、ご飯、野菜、珈琲)を持ち寄って、ご飯をつくり、一緒に食べるエピソードがあった。

 貧乏な漫画家・坪内(浅香航大)は食材がないが、食べる場を提供したらいいとお金持ちの坊っちゃん・島谷(竹内涼真)に言われて、食事会に参加できる。持つもの、持たざるもので人を分けない。持ってないように見える人にも何かがある。それは引いては、有名になるとか、お金持ちになるとか、才能が世間に認められるとか、そういう大きな目標だけが人生ではないということである。

 後半、向島電機が倒産して離れ離れになった豊子(藤野涼子)がクイズ大会で優勝したエピソードも嬉しい気持ちになった。仲間のなかでミソッカス的な存在であった澄子(松本穂香)の存在が優勝の鍵となるのだ。ささやかなことにだって意味がある。『ひよっこ』はそういうことをずっと描き続けていた。

 脚本家・岡田惠和が、最初はもう少し長い時間を書く予定だったが、みね子の妹・ちよ子(宮原和)と弟・進(高橋來)をそのまま子役のままでやりたくて時間を短くしたと言っていた。朝ドラでは赤ちゃん、子役、成長した俳優と代変わりすることが多いが、最後まで、同じ子役が登場したことも嬉しく見た。

 登場人物が年齢的にあまり成長しない物語であったが、シシド・カフカ、松本穂香、藤野涼子、小島藤子、古舘佑太郎、磯村勇斗、伊藤沙莉、竹内涼真などこのドラマからステップアップしていった俳優をたくさん生み出した。映画では活躍していた峯田和伸を全国区の人気にしたのも『ひよっこ』だろう。続編『ひよっこ2』も作られ、出演者がほぼほぼ出てきたことも嬉しかった。ささやかだけど嬉しくなることがたくさんあるドラマだった。

■木俣冬
テレビドラマ、映画、演劇などエンタメ系ライター。単著に『みんなの朝ドラ』(講談社新書)、『ケイゾク、SPEC、カイドク』(ヴィレッジブックス)、『挑戦者たち トップアクターズ・ルポルタージュ』(キネマ旬報社)、ノベライズ「連続テレビ小説なつぞら 上」(脚本:大森寿美男 NHK出版)、「小説嵐電」(脚本:鈴木卓爾、浅利宏 宮帯出版社)、「コンフィデンスマンJP」(脚本:古沢良太 扶桑社文庫)など、構成した本に「蜷川幸雄 身体的物語論』(徳間書店)などがある。

■番組情報
NHK連続テレビ小説『ひよっこ』
NHK総合にて、毎週月曜から金曜16:20〜16:50、1日2回ずつ再放送中
出演:有村架純、沢村一樹、木村佳乃、羽田美智子、佐久間由衣、泉澤祐希、峯田和伸、津田寛治、宮原和、高橋來、佐々木蔵之介、古谷一行、宮本信子、磯村勇斗ほか
作:岡田惠和
音楽:宮川彬良
2017年4月3日から放送[全156回]
写真提供=NHK放送

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