篠原涼子×大泉洋が織りなす“お節介型ラブコメ” 時代を先取りしていた『ハケンの品格』

時代を先取りしていた『ハケンの品格』

「とっくり」と「くるくるパーマ」によるお節介型ラブコメ

 そして何より回を重ねるごとに魅力を増したのが、大前春子と東海林主任のラブコメ要素。手柄はすべて横取りし、ミスは押しつける東海林主任は、登場当初は完全に敵キャラ。ところが、大泉洋のコミカルで憎めない演技がどんどんパワーアップし、大前春子と東海林主任がお互いの外見的特徴から「とっくり」「くるくるパーマ」と憎まれ口を叩くさまは、いつしか毎回のお楽しみに。キレのいい篠原涼子の台詞回しと、緩急巧みな大泉洋のコミックリリーフぶりは相性抜群で、途中からは「トウカイリン主任!」「ダイゼンシュンコさん」と派生バージョンも登場。その丁々発止のやりとりがドラマの目玉となった。

 ヒロインになったつもりで思わず胸キュンする憧れ型のラブコメではない、ふたりのワチャワチャを見て「いいからさっさとくっついちゃいなさいよ~」と近所のおばちゃん化するお節介型ラブコメとして視聴者を夢中にさせたことも、ヒットの秘密だ。

アフターコロナの世界で働き方をどう描くか

 13年ぶりの続編では、篠原涼子、小泉孝太郎、勝地涼、上地雄輔、そして大泉洋と主要キャストが再び集結。期待値はぐんと上昇したが、不安な面もある。

 ひとつは、派遣社員に対する認識の変化だ。前作が放送されたのちに、リーマンショックによる派遣切りが発生。「派遣社員=自分の力で生きる」という主張が、以前より説得力を持たせづらくなった。

 さらに、フリーランスという働き方が世に広まった今、大前春子の生き方とスキルを考えるなら、フリーランスの方が自然である。その中でなぜ今も派遣社員を続けるのか。その必然性を提示できなければ違和感は否めない。2020年の今、派遣社員をどう描くかが、最初のハードルだろう。

 とっくりとくるくるパーマのラブコメ要素も懸念材料のひとつだ。13年が経過した今、大前春子も東海林主任も40代半ば(大前春子は年齢不詳)。前作のような阿吽の呼吸をもう一度という期待はあるが、このあたりは蓋を開けてみないとわからない。

 今回、大泉洋は舞台とスケジュールがバッティングしており、特別出演という位置付けだ。そのため、出演シーンは前作ほどではないと推測されていたが、新型コロナウイルスの感染拡大により、舞台は残念ながら公演中止に。ドラマの撮影も休止となっている。「禍福は糾える縄の如し」というが、このスケジュール変更がどれほどシナリオに影響を及ぼすのか。とっくりとくるくるパーマが観たいファンにとっては気になるところだ。

 そして最大のハードルが、働き方に関する描写だ。『ハケンの品格』には「働くことは、生きることだ」というテーマがある。しかし、2020年の今、このフレーズがどれくらい若年層に受け入れられるかは疑問だ。「仕事に成長を求めない」という主張も最近では目立つ。その中で、大前春子は「働くこと」に対して今度はどんな答えを出すのか。特に新型コロナウイルスの感染拡大は、日本人の仕事観にもすでに多大な影響を及ぼしている。内容によっては「古い」と捉えられるリスクもあるだろう。

 だが、ピンチはチャンスでもある。2007年放送当時から多様性への目配せも効いており、派遣社員の現実と格差を描いてきた中園ミホなら、今のこの空気感にジャストフィットする「働くことは」の答えを示してくれるかもしれない。『ハケンの品格』は、アフターコロナの世界でいち早く働き方の最新バージョンを問うドラマになりうる可能性を秘めているのだ。

■横川良明
ライター。1983年生まれ。映像・演劇を問わずエンターテイメントを中心に広く取材・執筆。初の男性俳優インタビュー集『役者たちの現在地』が発売中。Twitter:@fudge_2002

■放送情報
『春子の物語 ハケンの品格 2007 特別編 第一夜』
日本テレビ系にて、4月15日(水)22:00〜23:00放送
『春子の物語 ハケンの品格 2007 特別編 第二夜』
日本テレビ系にて、4月22日(水)22:00〜23:00放送
出演:篠原涼子、小泉孝太郎、大泉洋、勝地涼、上地雄輔ほか
製作著作:日本テレビ
(c)日本テレビ

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