『名探偵コナン 純黒の悪夢』がシリーズの転換点となった理由 “2つの要因”から紐解く

『名探偵コナン 純黒の悪夢』を振り返る

 この『純黒の悪夢』で生まれた変化は、その後の作品にもしっかりと反映されている。つづく『から紅の恋歌』でのテレビ局爆破や、昨年の『紺青の拳』でのマリーナベイ・サンズを舞台にしたパニックシーンと、オープニングシークエンスの引きが圧倒的に強くなっているのだ。しかも、それが決して“出落ち”で終わらないように常に緊張感が張り巡らされ、何度もピークに達する瞬間に“見せ場”となるアクションでさらに盛り上げる。一方で、阿笠博士と少年探偵団のゆるいやり取りなどのユーモラスな掛け合いが、バランスよく折り込まれていくので、『名探偵コナン』という作品の本質から決して逸脱することもない。

 こうした巧みな方法をもって、単にスケール感を増すだけでなく進化を遂げることによって、エンターテインメント自体が多様化することにも、映画がアトラクション化することにも、そしてそれでも安定感のある古典的な娯楽映画を求める層にも対応していったことが、『名探偵コナン』の大成功へと繋がることになったといえよう。

 前述した『純黒の悪夢』公開当時のレビューで筆者は、「テーマパークパニック映画」の要素と「ノワール映画」の要素を「娯楽映画」の文脈に落とし込んだ作品であると指摘したが、その贅沢なミックスは、おそらく最新作『緋色の弾丸』でも観られることだろう。その最新作で物語の軸となる赤井秀一の(本格的な)劇場版初登場作品であると同時に、“子供向けアニメ”というイメージを完全に拭い去る正真正銘の“国民的アニメ”が誕生する瞬間であるということが、この『純黒の悪夢』の何よりの見どころではないだろうか。

■久保田和馬
1989年生まれ。映画ライター/評論・研究。好きな映画監督はアラン・レネ、ロベール・ブレッソンなど。Twitter 

■放送情報
『名探偵コナン 純黒の悪夢(ナイトメア)』
日本テレビ系にて、4月10日(金)21:00〜22:54
原作:青山剛昌
監督:静野孔文
脚本:櫻井武晴
音楽:大野克夫
声の出演:高山みなみ、山崎和佳奈、小山力也、山口勝平、林原めぐみ、池田秀一、古谷徹、三石琴乃、天海祐希
(c)2016 青山剛昌/名探偵コナン製作委員会

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