戸田恵梨香が私たちに灯した炎 『スカーレット』最終週が描いた“特別な1日”

『スカーレット』戸田恵梨香が我々に灯した炎

 人の思いは伝わっていく。ちや子(水野美紀)から草間(佐藤隆太)、草間から武志へと伝っていったエールのバトンが、武志から大崎(稲垣吾郎)へと感謝の気持ちとして力強い握手になっていったように。喜美子、ついには武志にも陶芸において越されてしまった八郎は、深野(イッセー尾形)がかつて若い絵付け師の弟子になるためにと向かった長崎で再び陶芸家を目指すことを喜美子に告げる。生前、武志が喜美子に気恥ずかしくて言えなかった「俺を産んでくれてありがとう」という言葉とともに。

 それにしても、川原家の縁側ではいろいろなことがあった。常治(北村一輝)も一緒に川原家みんなで食べた西瓜、マツ(富田靖子)との苺、八郎との蜜柑。家族団欒の一方で、喜美子と八郎との別れ話も、縁側には記憶として残っている。けれど、最後に喜美子と八郎が頬張る蜜柑には、希望の未来が見えた。「また会って話しような」と残す八郎の言葉からは、これからも変わらず続いていく2人の関係性が見えると同時に、挫折して帰ってきた八郎に喜美子が笑って喝を入れる姿もいいなと思えてくる。

 『スカーレット』は、喜美子が穴窯で一心不乱に炎と向き合う姿で幕を閉じる。これも第1回の冒頭のシーンとリンクした部分であるが、違うのは再び一人となった喜美子がこれからを生きていくという、揺るぎない強さを戸田恵梨香の表情から感じられることだ。『スカーレット』は、特別な派手さこそないものの、演者の細かな演技、丁寧な脚本、愛情のこもった作品作りによって、キャラクターの心情の機微がより鮮明に感じ取られる朝ドラであった。物語はここで終わってしまうが、喜美子や武志たちから我々に灯された炎は消えない。

■渡辺彰浩
1988年生まれ。ライター/編集。2017年1月より、リアルサウンド編集部を経て独立。パンが好き。Twitter

■放送情報
NHK連続テレビ小説『スカーレット』
2019年9月30日(月)〜2020年3月28日(土)放送予定(全150回)
出演:戸田恵梨香、富田靖子、大島優子、林遣都、松下洸平、黒島結菜、伊藤健太郎、福田麻由子、マギー、財前直見ほか
脚本:水橋文美江
制作統括:内田ゆき
プロデューサー:長谷知記、葛西勇也
演出:中島由貴、佐藤譲、鈴木航ほか
写真提供=NHK
公式サイト:https://www.nhk.or.jp/scarlet/

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