“30分ドラマ”、なぜ今の時代にフィット? 視聴者にとって「あっという間」の快感

“30分ドラマ”、なぜ今の時代にフィット?

(3)多様化する視聴スタイル

 今やドラマを観るデバイスはテレビに限らない。スマホやタブレットで観ている人も多いだろう。その流れに拍車をかけたのが、ビデオ・オン・デマンドの普及。TVerやParavi、Huluといったサービスを利用して視聴している層にとっては、スマホやタブレットの方が何かと便利だ。

 こうした視聴デバイスの多様化が何を生むかと言えば、視聴スタイルの変化だ。これは個人的な実体験に基づく意見だが、仕事で忙しい層が毎週21時や22時に時間をあけるのは至難の業。むしろ最近では、電車に乗っている時間にドラマを観ることの方が多い。

 総務省統計局が行った平成28年社会生活基本調査の結果によると、平日の通勤時間は男性で1時間26分(片道43分)、女性で1時間7分(片道33.5分)。このスキマ時間に観るには、45分は長すぎる。また、最近では入浴中にドラマを観ることも増えた。さすがに湯船につかりながら45分のドラマを観たらのぼせ上がってしまう。いずれも30分がベターな尺と言えるだろう。

 ライフスタイルの多様化。デバイスの多様化。今や一括りに物事を測れない現代において、30分は様々な視聴スタイルに馴染みやすいフォーマットだと考えられる。

(4)後追いしやすい

 先ほど面白いか面白くないかわからないものに貴重な可処分時間を費やすのはナンセンスと書いたが、逆に言うと体験性を重視する現代人は自分が面白いと感じるもの好きなものにならどんどんお金や時間を投じる傾向にある。

 SNSが広まったことで、面白いものは拡散されやすくなった。また、リーチできる情報量が膨大に増えた分、どのドラマが面白くて話題になっているかも顕著に可視化されるように。その結果、話題になるドラマ/一切口の端にも上らないドラマの二極化が加速。話題のドラマには回を重ねるごとに新規ファンが流入してくるようになった。

 時間的に一気見がしやすく、後発でもスムーズにリアルタイム勢に追いつけるのが30分ドラマの魅力。後追いしやすい30分ドラマは見逃し勢をファン化させやすいコンテンツなのだ。

(5)間延びしない

 そもそも45分尺のドラマを1クールやるという現在の日本のドラマの形式そのものが、すべての企画にマッチしているかと言えばそうとも限らない。最終回まで持たせるために7~8話で余計なエピソードが入ったりするなど、間延びして結果的にファンを逃したり熱を冷めさせてしまったドラマも容易に頭に浮かぶ。

 尺が短い分、本当に必要なエピソードだけで構成し、テンポをぎゅっと引き締めることができる30分ドラマはシャープになりやすく、無駄がない分、密度も強度も濃くなる。この「あっという間感」は視聴者にとっては快感だ。

 どの尺が最適かは企画次第。漫画に、長編や短編、4コマなど様々なジャンルがあるように、連続ドラマにも60分や30分、あるいは朝ドラのような15分などもっといろんなバリエーションがあってもいいのかもしれない。

 今はまだ30分ドラマは深夜・配信系が主体。けれど、上述の理由から考えると、今後はますます30分ドラマが世間に受け入れられる可能性は高い。いずれはプライム帯でも短尺のドラマが増えてくることも十分に考えられる。

 その先鞭をつけたのが、『俺の話は長い』(日本テレビ系)だろう。「30分2本立て」という斬新な試みで、新たなジャンルを切り開いた。プライム帯のドラマは今後この短尺文化とどう対峙していくのか。その動向を見守るのも、ドラマファンの楽しみのひとつだ。

■横川良明
ライター。1983年生まれ。映像・演劇を問わずエンターテイメントを中心に広く取材・執筆。初の男性俳優インタビュー集『役者たちの現在地』が発売中。Twitter:@fudge_2002

■放送・配信情報
MBS/TBSドラマイズム『死にたい夜にかぎって』
MBS:毎週日曜24:50~
TBS:毎週火曜25:28~
TBS放送終了後より、TSUTAYAプレミアムにて独占配信開始(他社見逃し配信を除く)
出演:賀来賢人、山本舞香、戸塚純貴、今井隆文、青木柚、櫻井健人、玉城ティナ、小西桜子、中村里帆、安達祐実、光石研
原作:爪切男『死にたい夜にかぎって』(扶桑社)
監督:村尾嘉昭
脚本:加藤拓也
制作:TBSスパークル
製作:カルチュア・エンタテインメント、MBS
(c)2020「死にたい夜にかぎって」製作委員会・MBS (c)爪切男/扶桑社
公式サイト:https://www.mbs.jp/shinitai_yoruni/
公式Twitter:@shinitai_yoruni
公式Instagram:shinitai_yoruni

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