戸田恵梨香の笑顔は回を重ねる度に魅力的に 『スカーレット』が描く変わらない一日を過ごす尊さ

『スカーレット』が描く変わらない一日の尊さ

琵琶湖へとつながる一滴の水

 水滴が青空を揺らす。底抜けに明るい「スペシャル・サニーデイ」の週明け、本編の再開を示す第22週のファーストショットは、青空だった。武志は入院中、じっと病室の窓に宿る水滴を見つめ、朝病室から見える青い空を眺めていた。やたら「負けずに」「負けへん」と「揺るぎない強さ」を持ち合わせている真奈(松田るか)。彼女が雨に「負けへん」ために買った傘は、真奈のことを大切に思うがゆえ、病気を理由に彼女を遠ざけようとする武志との涙が零れそうなやりとりの後、忘れられてそのまま置いていかれる。

 その傘は、晴れた日の通り雨と日差しを受けて煌く、美しい受け皿となる。そこから零れ落ちた一滴の水は、青空の映る水溜りに落ち、波紋となって広がっていき、武志の「熱くなる瞬間」につながる。武志は、持ちうる限りの力全てを注ぎ込むように、器の中にその光景を描いていく。

 思えば、このドラマは、お茶を出したり、コップを渡し、薬を飲み、喜美子がコップを洗うという過程であったり、作業場の蛇口で丁寧に手を洗うといった行程であったりと、水にちなんだ何気ない仕草を殊更大切に描いていた。彼らの日常には、常に水が寄り添っていたのだ。これもまた、武志にとっての「いつもと変わらない一日を過ごす」ことの一つなのだろう。

 そして、川原家の庭に零れ落ちた一滴の水は、水溜りを揺らし、大きな器に生き続ける水となって、琵琶湖に繋がる。京都の展覧会に参加するなど陶芸家として多忙な日々を送っているはずの喜美子は、未だに琵琶湖大橋を渡ったことがなかったということが第142話で判明する。

 武志の、「琵琶湖大橋を渡って俺の作品を智也(久保田直樹)に届けたる」という言葉に、喜美子は「お母ちゃんも絶対行く」と子供のようにワクワクとした表情を浮かべた。その表情は、父・常治(北村一輝)と一緒に家族で琵琶湖を見ていた幼少期の彼女(川島夕空)の表情と重なる。智也は亡くなってしまったが、予告を観た限り、武志と喜美子が、真奈を連れて、完成した作品を手に智也の母親(早織)に会いに、琵琶湖大橋を渡るという幸せな光景を我々は目の当たりにすることができるのかもしれない。そしてその後もきっと……。優しい奇跡が起こることを、心から祈っている。

■藤原奈緒
1992年生まれ。大分県在住の書店員。「映画芸術」などに寄稿。

■放送情報
NHK連続テレビ小説『スカーレット』
NHK総合にて、2019年9月30日(月)〜2020年3月放送予定
出演:戸田恵梨香、北村一輝、富田靖子、桜庭ななみ、福田麻由子、佐藤隆太、大島優子、林遣都、財前直見、マギー
水野美紀、溝端淳平、木本武宏、羽野晶紀、三林京子、西川貴教、松下洸平、イッセー尾形 ほか
脚本:水橋文美江
制作統括:内田ゆき
プロデューサー:長谷知記、葛西勇也
演出:中島由貴、佐藤譲、鈴木航ほか
写真提供=NHK
公式サイト:https://www.nhk.or.jp/scarlet/

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