日本のホラー映画興行に異変? 『犬鳴村』と『ミッドサマー』、日米異世界ホラーが同時ヒット

日本のホラー映画興行に異変?

 逆に、サプライズヒットと言えるのは、全国106スクリーンでスタートの小〜中規模公開作品でありながら、公開週は初登場7位、先週末はランクアップして6位につけているアリ・アスター監督の『ミッドサマー』だ。配給のファントム・フィルムは宣伝の戦略上「ホラー映画」と称されることを避け(ホラー映画好きとして残念な話ではあるが、その戦略は理解できる)、スウェーデンの村で行われる祭典のかわいらしいビジュアルを全面的に展開していて、アリ・アスター自身も「ホラー映画」とジャンル分けされることに懸念を示している同作だが、中身はR15+指定も当然の強烈な恐怖描写と性的描写を含む相当ハードコアな作品。また、現在33歳のアリ・アスターは同世代の監督の中でも突出した筋金入りのシネフィル監督。イングマール・ベルイマンからパク・チャヌク、さらにはセルゲイ・パラジャーノフまで、今回の『ミッドサマー』にも全編に過去の映画へのレファレンスが張り巡らされている。本来はかなりコアな作品であるにもかかわらず、学生や20代を中心とする観客層で劇場は賑わっているという。日本でも『IT』シリーズの例外的なヒットはあったものの、まだまだ近年の海外におけるホラー映画のアート的な地位の向上とそれを取り巻く熱が伝わっていないことに常々苦い思いをしてきたが、Netflix『ストレンジャー・シングス』などを通して新しい時代のホラー作品に親しんできた若年層を中心に、いよいよその風向きが変わってきたのかもしれない。

■宇野維正
映画・音楽ジャーナリスト。「MUSICA」「装苑」「GLOW」「Rolling Stone Japan」などで対談や批評やコラムを連載中。著書『1998年の宇多田ヒカル』(新潮社)、『くるりのこと』(新潮社)、『小沢健二の帰還』(岩波書店)、『日本代表とMr.Children』(ソル・メディア)。最新刊『2010s』(新潮社)、2020年1月30日発売。Twitter

■公開情報
『ミッドサマー』
TOHOシネマズ 日比谷ほかにて公開中
脚本・監督:アリ・アスター
出演:フローレンス・ピュー、ジャック・レイナー、ウィル・ポールター、ウィリアム・ジャクソン・ハーパー、ウィルヘルム・ブロングレン、アーチー・マデクウィ、エローラ・トルキア
製作:パトリック・アンディション、ラース・クヌードセン
撮影監督:パヴェウ・ポゴジェルスキ
プロダクション・デザイン:ヘンリック・スヴェンソン
編集:ルシアン・ジョンストン
衣裳デザイン:アンドレア・フレッシュ
音楽:ボビー・クルリック
配給:ファントム・フィルム
2019年/アメリカ映画/ビスタサイズ/147分/原題:Midsommar
(c)2019 A24 FILMS LLC. All Rights Reserved.
公式サイト:https://www.phantom-film.com/midsommar/

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