『チャーリーズ・エンジェル』が2020年に蘇った意義 最高にかっこいい女優陣を堪能せよ

『チャーリーズ・エンジェル』が蘇った意義

 その一方、荷の重さを感じる部分もないではない(特に脚本の練り込みは明らかに足りない)。辛辣すぎるユーモアセンスが小骨のように引っかかってしまう部分もある。なかでも「ラルフ殺し」のくだりは初見だと飲み込みづらいと思うので、『スキャンダル』(2019年)とセットで観るのがオススメだ。それは同時に、バンクスの「気骨」を感じる部分でもある。これまでジェームズ・ガン、ケヴィン・スミス、ピーター・ファレリーといったクセモノ監督と組み、『ハンガー・ゲーム』シリーズや『パワーレンジャー』(2017年)で強烈な悪役を演じてきた彼女の、反感を恐れない鍛え上げられた精神を見る映画でもある。

 主演女優3人の魅力をとことん引き出してみせたのも、明らかに監督の功績だ。特にクリステン・スチュワートの弾けた快演が素晴らしい。近年はインディーズ系の出演作が多く、繊細でナチュラルな演技の印象が強かったが、本作ではまるでカートゥーン・キャラクターのごとく表情豊かでケレン味あふれる芝居を全編にわたって披露。コミカルなしぐさからキレのあるパンチまで、全身の一挙手一投足をひたすら魅力的に見せる器用さは、ほとんど『ファイト・クラブ』(1999年)のブラッド・ピット級だ。ジェンダーレスな魅力と、不良っぽさと茶目っ気を兼ね備えたサビーナ役は、彼女の新たな当たり役と言っていい。

 圧倒的なスタイルの良さと実戦的アクションの美しさに目を見張る新星エラ・バリンスカ、観客の分身となる実質的な主人公を愛嬌たっぷりに演じるナオミ・スコットもそれぞれに好演。この1作では終わってほしくない魅力的なアンサンブルを奏でている。

 本作が全米公開時に思ったほどの興行成績を上げられなかったのは、ゼロ年代版ほどにわかりやすくパンチのきいた「男も女も楽しめる娯楽作」の印象を持たれなかったことと、これまで述べてきた「女性映画」としての主張の強さも影響したと思われる。主人公を全員女性にしたリブート版『ゴーストバスターズ』(2016年)が男尊女卑勢力のいわれなき攻撃にさらされたのと同じように、必要以上に叩く風潮は間違いなくあったはずだ。だとしたら、そんな戯言には耳を貸さず劇場に走るべし、と言いたい。だって『チャーリーズ・エンジェル』なのだから。そして、間違いなく女の子たちが最高にかっこいい映画に仕上がっているのだから。ドナ・サマー「バッド・ガールズ」のリミックスに乗って、スチュワートとバリンスカが踊りまくるパーティーシーンの素晴らしさを浴びるためだけでも、何度でもリピートしたくなること請け合いの麻薬的快作である。

■岡本敦史
ライター。雑誌『映画秘宝』編集スタッフとして、本誌のほか多数のムックに参加。主な参加作品に『別冊映画秘宝 サスペリアMAGAZINE』『映画秘宝EX 激闘! アジアン・アクション映画大進撃』『塚本晋也「野火」全記録』(以上、洋泉社)など。劇場用パンフレット、DVD・Blu-rayのブックレット等にも執筆。Twitter

■公開情報
『チャーリーズ・エンジェル』
全国公開中
監督・脚本:エリザベス・バンクス
製作総指揮:ドリュー・バリモア
出演:クリステン・スチュワート、ナオミ・スコット、エラ・バリンスカ、エリザベス・バンクス
配給:ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント
公式サイト:https://www.charlies-angels.jp

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「作品評」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる