『プライベート・ウォー』が描く“自由の価値” 「自己責任」に囚われる私たちが考えるべきこと

『プライベート・ウォー』が描く自由の価値

「自己責任」の危うさ

 外部のジャーナリストによる報道は、世界の人々が現地の情報をより正確に理解できることにくわえ、圧政や被害を受けている人々を救済する結果につなが場合がある。実話を基にした韓国映画『タクシー運転手~約束は海を越えて~』で、独裁政権が政府への反対運動をする市民を虐殺する光景を撮影したドイツ人ジャーナリストや、これから公開される、やはり実話ベースの『Minamata(原題)』で、アメリカの写真家ユージン・スミスが、現地で暴行を受けながらも日本の水俣病の被害を撮影したことで、公害による一般市民の被害を広く世界に伝えたように、取材者がいなければ覆い隠されていたかもしれない事実を白日のもとにさらすことで、狭い範囲だった問題が、世界が解決すべき問題へと変貌することもあるのだ。

 日本では、危険地帯に出向いたジャーナリストが命を落としたり拘束されることに対し、「自己責任」だとして、救出に対して税金をかけることに否定的な意見が決まって出てくる。マシュー・ハイネマン監督は、日本でのインタビュー(参考:https://joshi-spa.jp/952018/)のなかで、ジャーナリストの仕事が日本でそのように扱われることがあるということについて、「(自己責任なんて)考えたことはない」と発言している。そして、「メリーだって別にアメリカに対する愛国心で取材に行ったわけではなく、そこで起きていることを世界に伝えなければというのが個人的なモチベーションとしてあったはず。それがジャーナリストなんです」と述べている。

 国家の利益にならなくとも、その人の命を心配しているとしても、最終的に自由な行動を尊重するという考え方は、個人主義の基本的な理念だ。それは、周りの人々もまた、自分の生き方を束縛されたくないということでもある。苦難のなかにある人々を救おうとするコルヴィンの生き様や、周囲の彼女に対する評価には、人間一人ひとりを尊重しようとする意思が感じられる。それこそが、苦難を描き続ける本作に、希望や輝きを与えているのではないだろうか。

■小野寺系(k.onodera)
映画評論家。映画仙人を目指し、作品に合わせ様々な角度から深く映画を語る。やくざ映画上映館にひとり置き去りにされた幼少時代を持つ。Twitter映画批評サイト

■リリース情報
『プライベート・ウォー』
3月3日(水)、Blu-ray&DVD発売 ※同日レンタル開始
Blu-ray:4,800円(税別)
DVD:3,900円(税別)
【映像特典】インタビュー集、予告編
【封入特典】ブックレット
監督・製作:マシュー・ハイネマン
脚本・製作:アラッシュ・アメル
製作:シャーリーズ・セロン
出演:ロザムンド・パイク、ジェイミー・ドーナン、トム・ホランダー、スタンリー・トゥッチ
主題歌:アニー・レノックス「Requiem for A Private War」
発売・販売元:株式会社ハピネット
2018年/イギリス・アメリカ/カラー/5.1ch/スコープサイズ/110分/英語/原題:A Private War/日本語字幕:松岡葉子/映倫区分:G
(c)2018 APW Film, LLC. ALL RIGHTS RESERVED
公式サイト:privatewar.jp

『メリー・コルヴィンの瞳』
3月3日(水)、DVD発売 ※同日レンタル開始
DVD:3,900円(税別)
監督:クリス・マーティン
製作:トム・ブライスリー
出演:メリー・コルヴィン、ポール・コンロイ 
発売・販売元:株式会社ハピネット
(c)Arrow International Media Limited/A&E Television Networks, LLC/The British Film Institute MMXVIII

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