驚くべき完成度とまさかの結末 イタリア発の正統派ミステリー映画『霧の中の少女』に二度驚く

正統派ミステリー『霧の中の少女』に二度驚く

 加えて、映画監督としてのカリシの鮮やかな手際にも唸らされた。物語の舞台となるアヴェショーの町をミニチュア模型で見せるオープニングシーンのケレン味にも驚かされたが、本編に入ってからも、これが初監督作とは思えないほどの手堅い演出と心地よいリズム感でストーリーが進んでいく。脚本家出身の監督には優れた監督も珍しくないが、ここまで名のある作家で、ここまでデビュー作の時点で映画監督として成熟している存在はちょっと前例が思い浮かばないほど。それを証明するかのように、イタリア本国では早くも『霧の中の少女』に続くカリシにとって2作目の監督作『L'uomo del labirinto』(ミステリー作家としてのドナートの代表作、ミーラ・ヴァスケス捜査官シリーズの一作)も公開されていて、同作では『霧の中の少女』にも主演している現代イタリア映画界を代表する名優トニ・セルヴィッロと並んで、あのダスティン・ホフマンがリードロールを務めている。

 さて、ここまで読んで、「いや、最近も『ナイブズ・アウト/名探偵と刃の館の秘密』や『9人の翻訳家 囚われたベストセラー』のようなミステリー映画の秀作があったじゃないか」と思う方もいるかもしれないが、少なくとも「ミステリー映画」というジャンルの原理に則って言うなら、それらの作品はいわば変化球的作品というか、「もしかしたら時代遅れかもしれないミステリー映画」の現状を逆手に取ったような作品だった。その点、『霧の中の少女』は古典的なミステリー映画のフォーマットを崩すことなく、その上で現代的なモチーフも盛り込んだ、適正な2時間のストーリーテリングによる模範解答的ミステリー映画と言える。そうそう、ジャン・レノが久々(失礼!)に名演を披露(しかも流暢なイタリア語で)しているところにも注目。カリシのミステリー小説がそうであるように、彼の監督作もイタリア国外で広い支持を集めるも時間の問題だろう。

■宇野維正
映画・音楽ジャーナリスト。「MUSICA」「装苑」「GLOW」「Rolling Stone Japan」などで対談や批評やコラムを連載中。著書『1998年の宇多田ヒカル』(新潮社)、『くるりのこと』(新潮社)、『小沢健二の帰還』(岩波書店)、『日本代表とMr.Children』(ソル・メディア)。最新刊『2010s』(新潮社)、2020年1月30日発売。Twitter

■公開情報
『霧の中の少女』
2月28日(金)kino cinema横浜みなとみらいほか全国順次公開
監督・原作:ドナート・カリシ
出演:トニ・セルヴィッロ、アレッシオ・ボーニ、ジャン・レノ
配給:キノフィルムズ・木下グループ
2017年/イタリア/イタリア語/カラー/SCOPE/5.1ch/128分/原題:The Girl in the Fog/日本語字幕:岡本太郎
公式サイト:girl-fog.jp

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