初登場2位『1917』 同時代に作られた戦争映画を劇場で観ることの尊さ

『1917』を劇場で体験する意味

 『1917』の話題性を牽引しているのは、全編がワンシークエンスのショットに見えるという、映像テクノロジーというよりもその映像テクニックだ。戦争映画はその題材の特性上、大規模な製作費を必要とするジャンルであり、また、映画史を振り返れば数々の巨匠が傑作を残してきた映画好きにとって特別なジャンルでもある。それなりの名声とキャリアを築き上げてきた監督にとっては、もしその機会を手にすることができるなら、人生で一度は撮ってみたいジャンルと言ってもいいかもしれない。サム・メンデス監督にとっても、『1917』は第一次世界大戦に従軍した祖父の話を基にしたというパーソナルな動機だけでなく、全編ワンシークエンス・ショットという恐ろしいほど執念と手間と時間がかかる手法を用いてでも、映画監督としての野心においてどうしても実現したかった企画だったのではないか。

 結果として、『1917』はアカデミー賞の作品賞や監督賞の受賞は逃したものの、数々の映画賞を受賞し、世界興行においても大きな成功を収めることとなった。しかし、ほぼすべてのハリウッド・メジャーが続編やスピンオフといったフランチャイズ作品に選択と集中を進める中、小中規模の製作予算では成り立ちにくいハリウッドの戦争映画の製作本数は今後ますます減っていくだろう。そう考えると、今、劇場で『1917』を体験するのには大きな意味がある。

■宇野維正
映画・音楽ジャーナリスト。「MUSICA」「装苑」「GLOW」「Rolling Stone Japan」などで対談や批評やコラムを連載中。著書『1998年の宇多田ヒカル』(新潮社)、『くるりのこと』(新潮社)、『小沢健二の帰還』(岩波書店)、『日本代表とMr.Children』(ソル・メディア)。最新刊『2010s』(新潮社)、2020年1月30日発売。Twitter

■公開情報
『1917 命をかけた伝令』
全国公開中
監督:サム・メンデス
脚本:サム・メンデス、クリスティ・ウィルソン=ケアンズ
製作:サム・メンデス、ピッパ・ハリス
出演:ジョージ・マッケイ、ディーン=チャールズ・チャップマン、ベネディクト・カンバーバッチ、コリン・ファース、マーク・ストロングほか
配給:東宝東和
(c) 2019 Universal Pictures and Storyteller Distribution Co., LLC. All Rights Reserved.
公式サイト:1917-movie.jp

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