『テセウスの船』掴みかけた手がかりは振り出しに “視線”が重要なメタファーに?

『テセウスの船』“視線”が重要に?

 本格ミステリーであり時を超えた家族の絆を描く『テセウスの船』では、視線が重要なメタファーの役割を果たしている。明音を監禁した山中の小屋で扉の隙間から凝視する眼や、鈴の行動をとらえる監視カメラの視角など、窃視することは見られる側にとって同一性を奪われることに通じる。真犯人によって運命を狂わされた鈴や佐野は、幸福な未来に生きる可能性そのものを奪われているとも言い換えられる。

 一方で、心とともに音臼小事件を探る由紀は、「自分には見えていないものがあるって気づかされたんです」と佐野に語る。真実を探求することと、そこにあったかもしれない可能性を信じることとは、必ずしも矛盾するとは限らない。佐野や心との出会いを経て事件の核心に踏み入る由紀は、その関係性を体現する人物であり、ラストシーンの抱擁は、信じ合うことによって別々の現実が重なり合うような象徴的な場面だった。

 必死の努力でつかみかけた真犯人に通じる手がかりは闇に葬られてしまった。ネット上での犯人をめぐる考察が盛り上がりを見せる中、制作サイドからは原作と異なる真犯人の存在も示唆されている。明らかに怪しい行動を見せる人物のほか、過去と現在、またもう一つの現在を行き来する中で浮上するキャラクターも考えられる。ミステリードラマとしてここからが佳境の『テセウスの船』。見逃せない展開が続きそうだ。

■石河コウヘイ
エンタメライター、「じっちゃんの名にかけて」。東京辺境で音楽やドラマについての文章を書いています。ブログtwitter

■放送情報
日曜劇場『テセウスの船』
TBS系にて、毎週日曜21:00~21:54放送
出演:竹内涼真、榮倉奈々、安藤政信、貫地谷しほり、芦名星、竜星涼、せいや(霜降り明星)、今野浩喜、白鳥玉季、番家天嵩、上野樹里(特別出演)、ユースケ・サンタマリア、笹野高史、六平直政、麻生祐未、鈴木亮平
原作:東元俊哉『テセウスの船』(講談社モーニング刊)
脚本:高橋麻紀
演出:石井康晴、松木彩、山室大輔
プロデューサー:渡辺良介、八木亜未
製作:大映テレビ、TBS
(c)TBS
公式サイト:https://www.tbs.co.jp/theseusnofune/

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