すべての登場人物は世界のどこかの誰かかもしれない 『ふたりのJ・T・リロイ』が問いかけるもの

『ふたりのJ・T・リロイ』が問いかけるもの

 J・Tが架空の作家であった事実を突きつけられた人々のなかには、その物語が「イケメン少年作家」の半生ではなく「中年女性」の妄想でしかなかったと手のひらを返した者も、それでも物語の素晴らしさを称え続けた者もいたという。すべての物語は世界の誰かの人生であるかもしれなく、すべての登場人物は世界のどこかの誰かかもしれない。そんな可能性に想いを馳せることもせず、想像力を張り巡らせることもせず、ただ事実であるという有り難みにおいて価値判断を下すような受容の在り方を前にして、映画作家フェデリコ・フェリーニの言葉――「生み落とされた作品は、作りものとも真実とも異なり、それそのものでしかない」は、無力に響くしかない。虚構と事実、フィクションと実話、嘘と真実、偽物と本物……。それらが複雑に絡み合った本作『ふたりのJ・T・リロイ』は、芸術における“Based on a True Story”の示す意味を強く問いかけてくる映画でもある。

■児玉美月
映画執筆家。大学院でトランスジェンダー映画の修士論文を執筆。「リアルサウンド」「映画芸術」「キネマ旬報」など、ウェブや雑誌で映画批評活動を行う。Twitter

■公開情報
『ふたりのJ・T・リロイ ベストセラー作家の裏の裏』
2月14日(金)より、シネマカリテ、YEBISU GARDEN CINEMAほか全国公開
監督・脚本・製作総指揮:ジャスティン・ケリー
原作・脚本・製作総指揮:サヴァンナ・クヌープ
出演:クリステン・スチュワート、ローラ・ダーン、ジム・スタージェス、ダイアン・クルーガー、コートニー・ラヴ
配給:ポニーキャニオン
アメリカ/カラー/108分/スコープ/5.1ch/原題:Jeremiah Terminator LeRoy/字幕翻訳:石田泰子/PG12
(c)2018 Mars Town Film Limited
公式サイト:jtleroy-movie.jp

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